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農地の所有者が家族信託を検討する際、通常の家族信託とは異なる点に注意しましょう。
農地は信託できないのが原則だからです。
農地信託制度を使えば、農地であっても信託はできます。
しかし農地信託制度で受託者になれるのは、農協などの一定の機関に限定されます。農地信託制度を用いた場合、家族を受託者にするのは困難です。
家族信託の財産に農地を組み込みたい場合、他の方法を実践する必要があります。
この記事では、農地を信託する方法と注意点を解説します。
農地の信託は、原則として禁止されています。
農地の所有権移転は、農地法の規制を受けるからです。
農地法による制限があるため、原則、信託財産に農地を含めることはできません。農地を信託したいのであれば、農業委員会などの許可を得る必要があります。
信託による所有権移転は形式的であり、売買や贈与による所有権移転とはやや性質が異なります。しかし形式的であっても、所有権が移転する以上、信託も農地法の適用を受けると解釈されるのです。
「個人の財産なのだから自由に処分して良いのでは?」と、不満に感じる方もいるかもしれません。
しかし、農地は日本の食料事情に影響します。農地の面積が減ったり農地の管理が杜撰(ずさん)になったりすると、食料自給率が減少し、食料危機を招きます。耕作面積の狭い日本にとって、農地の確保は重要なテーマです。土地の処分に制限がかかるのも、ある程度は致し方ないといえるでしょう。
農地を信託する方法には、以下の2つがあります。
2つの方法を区別するポイントは、転用手続きの主体です。
農地法4条にもとづき、農地を転用し、農地を信託する方法があります。
農地の転用とは、農地を農地以外の利用目的に変更する手続きです。
農地を転用し、農地を宅地とすることで、もともと農地だった土地を信託財産に含めることが可能になります。
農地法第4条にもとづく場合、農地転用から信託手続きまでの一連の流れは、土地所有者本人が主体になって行います。それゆえ、家族信託の一環として農地を信託する際は、土地所有者本人の健康状況に注意しなければなりません。
農地転用(農地法第4条)にもとづいて農地の信託を進めるメリットは、手続きの流れが分かりやすい点です。
転用により農地を宅地に変更した後の流れは、通常の信託と同じです。
農地転用→(家族)信託と進めるのが農地法第4条を使ったルートであり、構造はシンプルといえます。
また、農地転用の方法に沿って手続きを進める場合、信託手続きをいったん保留にする選択肢も取れます。
家族信託では信託内容を検討するのに時間がかかるケースがありますが、農地転用手続きを先に済ませて、信託契約の具体的内容については後で決めることも可能です。また、場合によっては、農地転用のみにとどめ、家族信託そのものを取りやめる選択もできます。
慎重に手続きを進めたい方にとって、農地転用の流れに沿った農地の信託は、有効といえるでしょう。
農地転用(農地法第4条)にもとづいて農地の信託を進めるデメリットは、時間がかかる点です。
農地転用にもとづく農地の信託は、後述する方法(農地法第5条)に比べて時間がかかります。農地転用を実現するには、建物の完成が前提だからです。
信託を急ぐ事情がない場合、時間の問題は大きなデメリットにならないかもしれません。
しかし家族信託では、土地所有者本人が高齢であるケースがほとんどです。建物完成前に本人が認知症になる可能性は、通常に比べて高いといえます。
手続きの途中で本人が認知症になると、転用から信託までの一連の手続きは頓挫します。農地転用にもとづく農地の信託は、本人が主体となって手続きが進むからです。
認知症が進行し、本人の意思能力が否定された場合、手続きは無効になるでしょう。
農地転用に基づき農地の信託を進める場合は、認知症のリスクに注意しましょう。
なお農地転用(農地法第4条)の方法を取る場合でも、任意後見契約を結ぶなどの工夫を加えることで、デメリットは解消し得ます。ただしその場合でも、高度な専門知識が必要となるため、弁護士や司法書士などへの事前相談をおすすめします。
2つ目の方法として、転用目的権利移転の申請(農地法第5条)を行う方法があります。
農地を農地以外の利用目的に転用した上で、信託財産に組み入れる点では、農地法第4条の場合と同じです。
農地法第4条との違いは、転用の主体です。
農地法第4条による転用は、土地所有者本人(家族信託の委託者)が主体となって進めます。
しかし、農地法第5条による転用を行って家族信託を組む場合、農地の転用手続きを取るのは受託者です。
農地法第5条にもとづき農地転用をする場合は、前提として、転用目的権利移転の申請を行う必要があります。
農地法第5条の申請をし許可を得た後、受託者が主導で、建物の建築など具体的な転用手続きを進めます。
農地法第4条にもとづく方法と農地法第5条にもとづく方法とでは、手続きの主体が異なる点に注目しましょう。
農地法第5条にもとづく方法を使うメリットは、土地所有者(家族信託の委託者)の認知症によるリスクが低くなる点です。
農地法第5条にもとづく方法では、農地転用の主体が、土地所有者本人ではないからです。
農地法第5条のもと農地転用を進める場合は、家族信託の受託者が主体となります。
農地法第4条では農地転用の主体が土地所有者本人となり、農地の転用完了後に信託契約を締結します。
そのため、農地転用手続きの途中で所有者の認知症が進行すると、家族信託契約の締結ができません。
この点、農地法第5条にもとづく場合、土地所有者の認知症が、農地転用手続きに影響する可能性が低くなります。農地法第5条における農地転用の主体は、家族信託の場合は受託者だからです。
受託者に判断能力が備わっている以上、委託者(土地所有者)の健康状態に関係なく進められる点が、農地法第5条を使うメリットといえるでしょう。
農地法第5条にもとづく方法を使うデメリットは、固定資産税の増加です。
農地を宅地に転用する結果、土地の評価額が上がり、固定資産税として納める金額も増えるからです。
目的のない農地の信託は、管理費の増加を招き、コストを上げるだけの結果にもなりかねません。
農地の信託を検討する際は、信託の必要性を明確にしましょう。
農地を宅地に転用する際に注意すべき事項は、該当する土地の「区域」です。
信託の目的とする土地が、市街化区域ではなく、市街化調整区域に属する場合、宅地への転用のハードルが上がるからです。
市街化区域は、すでに市街地を形成しているエリアや開発が予定されているエリアです。
建築物の数が多いため、新たな建設に対して寛容といえます。
農地の転用も、農業委員会に事前に届け出を行うことで、前述の許可を得る必要はありません。農地を宅地に転用し、住宅やマンションを建てることも、認められやすいといえるでしょう。
一方で、市街化調整区域は、市街化に対して消極的なエリアです。建物の乱立は好ましくないとされるため、新たな住宅やマンションの建設が歓迎されません。結果として、農地から宅地への転用は認められない可能性が高いといえます。
農地の信託を考える際は、該当の土地が、市街化区域に位置しているかどうかを確認しましょう。
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家族信託に際して、農地転用後に発生する税金は、次の通りです。
固定資産税は、転用前も転用後も発生します。しかし土地が農地から宅地へ代わると、固定資産税が高くなるのが通常です。固定資産税の増加は、農地を信託するデメリットの1つといえます。
土地を信託する場合、不動産登記が必要であり、これは信託の事実を公示するためです。登記に当たっては登録免許税が発生します。
贈与税は必ず発生するわけではありません。委託者と受益者が異なる場合は、贈与税の対象になります。例えば、父親が息子を受託者として農地を信託し、父親が受益者を兼ねる場合は、贈与税の対象外となります。実質的な利益の移転がないからです。
相続税は、本人の死亡時に問題となります。信託契約の時点では発生しません。
なお税金以外にも、専門家に仕事を依頼した場合は報酬が発生します。例えば不動産登記申請を司法書士に依頼すると、登録免許税の他に、登記手続きの報酬の支払いが必要です。
農地信託制度は、農地を農地のままの状態で信託する方法です。
農地信託制度では、信託における受託者が、農協(農業協同組合)または農地中間管理機構となります。
農協などを受託者として農地を信託する場合、農地の状態のままでの信託が可能になります。農地から宅地へと変更する農地転用作業を経ないまま信託できるのが、農地信託制度の特徴です。農地転用が不要となる結果、前述の許可を得る作業も不要となります。
農地転用手続きを経ずに農地が信託できる点で、農地信託制度を使った農地の信託は、農地法第4条や第5条に基づく方法とは根本的に異なります。農地法第4条や第5条に基づく方法では、最終的に信託財産に組み込むのは、宅地などの農地以外の土地です。一方で、農地信託制度による農地の信託は、農地そのものが信託財産の対象になります。
受託者が家族でなくても構わない場合は、農地信託制度も視野に入れましょう。
農地の信託を行う際の注意点を解説します。
家族信託の一環として農地の信託を実践する場合、遺言書や任意後見制度の理解など、その他の制度についても配慮する必要があります。
農地の信託を行う際は、遺言書の存在を確認しましょう。
家族信託を組む際は、遺言書の内容との矛盾を防ぐ必要があるからです。
農地を長男に引き継がせる内容の遺言書があるにもかかわらず、当該農地を次男に引き継がせる家族信託を組むと、矛盾が生じます。
遺言書と家族信託の内容に矛盾があると、相続時の混乱を招きます。相続人間の争いに発展する可能性もあるため、注意しましょう。
なお、遺言書と家族信託の内容に矛盾が生じた場合は、原則として家族信託のほうが優先であると解釈されます。
任意後見制度の併用により、農地を信託する際における弱点が軽減される可能性が高まります。
農地の信託は、原則として農業委員会などの許可が必要になるため、時間がかかります。
特に農地法第4条にもとづく農地の信託を実践する場合、信託までにかかる時間は重要です。
農地法第4条にもとづく方法では、建物が完成するまで、農地を信託できません。建物の建設中に、土地所有者が認知症になる場合も想定できます。
土地所有者が認知症になると、意思能力との関係で手続きが進められず、農地の信託は失敗に終わる可能性が高いでしょう。
この点、任意後見制度を利用すれば、任意後見人が本人に代わり手続きを進められます。
農地の信託をする上で、認知症リスクに備えたい方は、任意後見制度の導入を検討すると良いでしょう。
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農地は農地のままでは、信託財産に組み込めないのが原則です。
農地を信託財産に含めたい場合、農地法第4条あるいは農地法第5条に基づき、農地転用手続きを経る必要があります。
農地信託制度を利用すれば、農地転用は不要となり、農地の状態のままで信託できます。
しかし、農地信託制度で受託者の対象となり得るのは、農協または農地中間管理機構のみです。
家族を受託者として農地を管理させたい場合は、農地法第4条や第5条にもとづく方法を検討しましょう。
家族信託において農地を扱う際は、認知症対策も意識する必要があります。
ファミトラでは、農地を信託する際、どのように認知症対策を取り入れるかのアドバイスも行っております。
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