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平成30年の民法改正で、居住用不動産贈与等の優遇措置が制定され、配偶者の生活が保護されるようになり、配偶者の相続分が増えることとなりました。
しかし、この制度は適用要件が複雑であるため、一般の方には理解しにくい内容です。
この記事では、この制度について他の優遇制度と比較しながら丁寧に解説しているので、ぜひ最後までお読みください。
田中 総
(たなか そう)
司法書士
2010年、東証一部上場の不動産会社に新卒で入社し、10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画・アセットマネジメント等の様々な業務に従事。
法人営業では遊休不動産の有効活用提案業務を担当。
経営企画では、新規事業の推進担当として、法人の立ち上げ、株主間調整、黒字化フォローの他、パートナー企業に出向して関係構築などの業務も経験。
司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。
田中 総
司法書士資格保有/家族信託コーディネーター/宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター
東証一部上場のヒューリック株式会社 入社オフィスビルの開発、財務、法人営業、アセットマネジメント、新規事業推進、経営企画に従事。2021年、株式会社ファミトラ入社。面談実績50件以上。首都圏だけでなく全国のお客様の面談を対応。
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈や贈与をした場合、特別受益の持ち戻しが免除され、居住用不動産を除いた財産を分配することになります。つまり、配偶者の相続分が増えるということです。
この制度は主に夫が先立った場合、現に居住している家を配偶者に贈与し、残された妻の住居を確保し生活基盤を安定させるためのものです。
しかし、平成30年の民法改正前は、居住用不動産の遺贈や贈与は遺産の先渡しとして扱われていました。
これを特別受益といい、遺産分割の際はこの特別受益の分も入れて計算され、その結果、配偶者は居住用不動産の贈与を受けなかった場合と同額しか相続できませんでした。
確かに、相続は公平かもしれませんが、配偶者は居住用不動産を得る代わりに生活費となる現金・預金などを十分に相続できなくなる可能性があり、被相続人が居住用不動産を贈与した意味がなくなってしまいます。
そこで平成30年に民法の改正が行われ、残された配偶者の生活を確保する条項が入れられました。以下、平成30年の民法改正について詳しく解説します。
平成30年には、昭和50年以来、40年ぶりの大幅な相続法の改正が行われました。
この間の超高齢化社会などの社会の変化に対応するため、以下の点が見直されました。
居住用不動産贈与等の優遇措置の適用を受けるための要件は以下の通りです。
相続人の中に、被相続人が存命中に特別の利益を受けた者がいる場合、その相続人の受けた贈与等の利益を特別受益といいます。ただし、生前に受けた贈与が全て特別受益になるわけではなく、他の相続人との関係で、遺産の前渡しといえるかどうかで、ケースごとに判断しなければなりません。
特別受益は、相続人間の不公平感をなくし、平等に相続財産を分配するための制度です。したがって、内縁の妻など相続人以外の者に贈与した分は、特別受益に当たりません。
しかし、贈与分が多額の場合、相続人は受贈者に対して遺留分侵害額請求を行える可能性があります。
具体的には以下のような行為が、特別受益に当たります。
上記の例に当たる場合、特別受益の主張をされる可能性があります。
贈与税の配偶者控除では、夫婦間で贈与された居住用住宅や居住用住宅取得費用のうち、2,000万円までが非課税となります。
しかし、居住用不動産贈与等の優遇措置を受けるためには、一定の書類を添付して、期限内に贈与税の申告をすることが必要です。
贈与税の申告書に以下の書類を添付する必要があります。
金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類の他に、その居住用不動産を評価した評価証明書などの書類の提出が必要です。
贈与税の申告には期限があり、優遇措置を受けるには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に税務署に贈与税の申告書を提出する必要があります。
しかし、贈与税の申告をし、優遇措置の適用を受けた方で、以下に該当し贈与を受けた翌年12月31日までに贈与を受けた居住用不動産に居住していない場合は修正申告をし、通常の贈与税を納める必要があります。
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一見、節税になりそうな居住用不動産贈与等の優遇措置ですが、実際には節税にならない場合があります。
節税にならない理由は以下の3つです。
以下で詳しく解説します。
これが最も大きな理由ですが、もともと夫婦間の相続であれば最低でも1億6,000万円まで、1億6,000万円を超えても法定相続分まで、非課税で相続できるからです。
配偶者控除は、被相続人の配偶者の生活を保護する制度です。しかし、配偶者控除の要件を理解していないと、払わなくてもよい税金を払うことになりかねません。
配偶者控除の要件は以下の通りです。
上述したように、配偶者控除を受けようと考えている方は、期限と相続税が0円でも申告が必要なことに注意しましょう。
小規模宅地の特例とは、一定の要件を満たす宅地などについては、評価額を最大8割まで下げることで、土地にかかる相続税を大幅に減額する制度です。
この制度の趣旨は、高額な税負担により、居住している自宅を手放さなければならなくなる事態を考慮して、配偶者などの残された家族が自宅に住み続けられるようにすることです。
例えば、評価額1億円の宅地の場合、課税上の評価額は2,000万円と大幅に減額します。
しかし、小規模宅地の特例は居住用不動産贈与等の優遇措置と同時には使えません。小規模宅地の特例は、贈与のときには使えず、相続のときにしか使えないからです。
不動産を贈与で取得すると不動産取得税と登録免許税がかかります。
不動産取得税の税率は土地と居住用建物それぞれに対しては3%、登録免許税は2%です。
相続で不動産を取得した場合、不動産取得税は非課税、登録免許税は0.4%です。
また、不動産の名義変更を司法書士に依頼した場合の報酬の平均相場は5万〜8万円、贈与税の申告を税理士に依頼した場合は5万〜10万円かかります。
評価額2,000万円の土地を、贈与で取得した場合と相続で取得した場合にかかる費用は以下の通りです。
不動産取得税:2,000万円 × 3% = 60万円
登録免許税 :2,000万円 × 2% = 40万円
司法書士報酬:8万円
税理士報酬 :10万円
合計 :118万円
不動産取得税:0円
登録免許税 :2,000万円 × 0.4% =8万円
司法書士報酬:8万円
税理士報酬 :10万円
合計 :26万円
相続で取得した場合のほうが、かかる費用は92万円安いことが分かります。
デメリットの多い居住用不動産贈与等の優遇措置ですが、使ったほうがいいのかどうかはケースバイケースです。使ったほうがいいケースと使わないほうがいいケースを解説します。
使ったほうがいいケースの1つめは、居住用不動産ではなく、居住用不動産の購入資金を贈与する場合です。金銭なので不動産取得税や登録免許税がかからず、司法書士に名義変更を依頼する費用も発生しません。
使ったほうがいいケースの2つめは、配偶者と他の相続人の仲が悪い場合です。
例えば、配偶者が後妻で相続人が亡くなった夫の連れ子であった場合などです。夫が、妻の生活を考えて居住用不動産を生前贈与したのに、連れ子が「不公平だ」といって、特別受益の持ち戻しを主張する可能性があります。
しかし先述したように、改正民法では婚姻期間20年以上の夫婦間での自宅の贈与は、持ち戻しをしなくてもよいことになりました。これを、特別受益の持ち戻し免除の推定といいます。
使わないほうがいいケースの1つめは、節税目的として使う場合です。
生前贈与は節税対策として使われることが多くありますが、居住用不動産贈与等の優遇措置を使用した夫婦間の居住用不動産の贈与は、相続税の軽減に関してほとんど効果がありません。
使わないほうがいいケースの2つめは、相続税の優遇措置のほうがお得な場合です。
そもそも、配偶者の相続であれば1億6,000万円まで非課税であり、小規模宅地の特例を使ったほうが得をする場合が多く見られます。
これらのことを踏まえると、居住用不動産の購入資金を贈与するケースと、相続で配偶者と他の相続人とでもめそうなケース以外、居住用不動産贈与等の優遇措置は使わないほうがいいといえるでしょう。
実際にどの優遇措置を使えばよいのかは、税制の専門家である税理士にご相談ください。
通常、生前贈与は相続税を節税するために行われますが、居住用不動産贈与等の優遇措置を使っても、節税の効果はほぼありません。
しかし、相続を円滑に進めるために、居住用不動産贈与等の優遇措置を使うほうがいいケースもあります。
ただし、居住用不動産贈与等の優遇措置を適用するか判断するには、高度な専門知識が必要です。
ファミトラでは元銀行員、司法書士、家族信託コーディネーターなどの専門家が豊富な経験と知識を生かしたセミナーの開催や相談の受付を行っています。居住用不動産贈与等の優遇措置に興味のある方は、ご相談ください。
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