本人や親族が成年後見制度を拒否したい理由とは？詳しく解説

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援する制度ですが、本人や家族が「成年後見人を拒否したい」と考えることがあります。

制度にはメリットがある一方で、本人の意思が尊重されない可能性や手続きの煩雑さ、費用負担などデメリットがあるのも事実です。

本記事では、成年後見人を拒否したい理由や、制度利用に伴うトラブル、その対処法、さらに制度を利用しない代替案について詳しく解説します。

記事を読むと、成年後見制度の利用を検討している方や制度に不安を感じている方にとって、役立つ情報が分かるでしょう。

成年後見制度とは？

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援する制度です。認知症や障がいにより自己決定が困難な方の権利を守り、財産管理や契約などの法律行為を代理します。

法定後見と任意後見の2種類があり、本人の状況に応じて適切な支援を提供します。

法定後見

法定後見制度は、判断能力が低下した人を支援するため、家庭裁判所が選任した法定後見人がサポートする仕組みです。
申し立て時に候補者を挙げられますが、最終的な選任は家庭裁判所が判断します。

法定後見人は、本人の判断能力の程度に応じて「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3種類に分けられます。

成年後見人は最も広い権限を持ち、本人の判断能力が最も低下したケースで選任されます。どの類型が適切かは、医師の診断書や本人との面談をもとに家庭裁判所が決定します。

この制度により、本人の権利や財産を守り、適切な生活支援を受けることが可能となるでしょう。

任意後見

任意後見制度は、判断能力が十分なうちに将来の支援体制を整える仕組みです。
本人が選ぶ将来の任意後見人と、支援内容を事前に契約で決定します。

契約後も本人の判断能力が低下するまでは通常の生活を送れます。判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、支援が開始される流れです。

法定後見と異なり、本人の意思を尊重する制度であるため、任意後見人には契約取消権がありません。この制度により、自分の意向に沿った将来の支援を確保できますが、契約時には十分な判断能力が必要です。

成年後見制度を利用するメリット

成年後見制度を利用する主なメリットには、以下のことが挙げられます。

• 預貯金の使い込みを防げる
• 詐欺や不必要な契約を防げる
• 相続手続きを進められる
• 保険金を受け取れる

詳しく見ていきましょう。

預貯金の使い込みを防げる

認知症などで判断能力が低下した人の預貯金を同居の親族が管理すると、経済的な状況によっては不適切な使用が起こりがちです。成年後見制度を利用すれば、本人の財産は家庭裁判所が選任した後見人の管理下に置かれるため、親族による預貯金などの不正使用を防止できます。

特に、親族による不正使用のリスクが高い場合、成年後見制度の活用が効果的です。後見人は定期的に収支報告を行う義務があり、家庭裁判所の監督下で適切な財産管理が行われます。

これにより、本人の預貯金を守り、必要な生活費や医療費などに適切に充てることができます。

詐欺や不必要な契約を防げる

認知症などで判断力が低下すると、悪質な契約や詐欺被害のリスクが高まります。

成年後見人を選任することで、こうした危険から本人を守ることができます。後見人は本人に代わって法律行為を行い、不適切な契約の未然防止が可能です。

万が一、本人が不利な契約を結んでしまった場合でも、後見人には契約を取り消す権限があります。これにより、本人の財産を守り、不当な損失を防ぐことができます。

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を法的に保護する重要な役割を果たせる制度といえるでしょう。

相続手続きを進められる

認知症などで判断能力が低下した相続人がいる場合、遺産分割協議の進行が困難になります。

成年後見人を選任することで、判断能力の低下によって生じる遺産分割協議の問題を解決できます。後見人は本人を代理して相続手続きに参加することが可能です。

これにより、本人に不利な内容での協議を防ぎつつ、相続手続きを進めることができます。

また、必要に応じて相続放棄などの判断も行います。成年後見制度の活用は、認知症の人の相続権を守る有効な手段となるでしょう。

保険金を受け取れる

判断能力が低下した保険金受取人に代わり、成年後見人が保険金請求や受取手続きを行えます。
保険金受取人の判断能力の低下が著しい場合には、成年後見人の選任により保険金受取が可能です。

一方、事前の対策として、保険会社の指定代理請求制度を活用することも有効です。元気なうちに代理人を指定しておくことで、将来的な手続きの煩雑さを軽減できます。

成年後見制度は、判断能力が低下した人の権利を守り、適切な財産管理を可能にします。保険金受取においても、この制度の利用が、本人の利益につながる場合があるといえるでしょう。

本人や家族が成年後見人を拒否したい理由とは？

成年後見制度の利用をためらう理由は多岐にわたります。

本人の意思尊重の問題、手続きの煩雑さ、財産管理の制限、後見人の負担、費用面での懸念、不正リスク、制度の継続性、親族間のトラブルなど、さまざまな要因が挙げられます。

これらの懸念点を理解し、適切に対応することが重要です。

本人の意思が尊重されない可能性がある

成年後見制度は自己決定権の尊重を理念としていますが、実際には本人の意思を反映させることが難しい場合があります。

認知症などで意思表示が困難になると、以前の希望や決定が考慮されにくくなります。例えば、相続に関する本人の意向が、後見人や家庭裁判所に認められないケースが発生することもあるでしょう。

このような問題から、本人自身が制度利用を拒否するケースがあります。「自分の意思が尊重されない」という不安や、財産管理の自由が制限されることへの抵抗感が理由です。

一方、親族が制度利用を拒否することもあります。本人の意思を尊重したいという思いや、家族間の信頼関係を重視する考えから、第三者の介入を望まないケースが見られます。

申し立てに手間や費用がかかる

成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申し立てが必要です。

この手続きには多くの時間と労力がかかり、費用も1万2,000円～2万円程度必要となります。これに加えて医師による鑑定が必要になる際には、ケースにより異なるものの、5万円～10万円程度かかるといわれています。

申し立てにはさまざまな書類の準備が求められ、受付から審判までは1～2カ月を要し、後見人選任まで3カ月以上かかることも珍しくありません。

この手間の煩雑さと費用負担が、本人や親族が制度利用をためらう要因となっています。

本人にとっては、手続きの複雑さや費用面での不安から制度利用を拒否するケースがあります。
一方、親族は緊急性の高い問題（施設入居のための自宅売却、相続手続きの停滞など）に直面していても、申し立てに時間がかかることで問題が深刻化する恐れを懸念し、制度利用をためらうこともあるでしょう。

参考：東京家庭裁判所立川支部「成年後見人申立ての手引き」（8ページ）

柔軟な財産管理はできない

成年後見制度は本人の財産保護を目的とするため、財産管理に厳しい制限が設けられています。例えば、居住用の不動産処分には家庭裁判所の許可が必要となり、資産運用や生前贈与などの相続税対策も困難です。

このような制限により、本人が自分の希望通りに財産を活用できなくなることを懸念し、制度利用を拒否するケースがあります。特に、資産運用や相続対策に関心が高い本人にとっては、大きな不満となり得るでしょう。

一方、親族が制度利用を拒否する理由としては、家族の意向に沿った柔軟な財産管理ができなくなることへの不安が挙げられます。例えば、本人の生活の質を向上させるための支出や、家族の事情に応じた資金活用が制限されることを懸念する場合があります。

成年後見人となる負担が大きい

成年後見人の職務は、財産管理と身上保護の両面で大きな責任を伴います。

財産管理では、預金口座の管理や不動産の処分など、複雑な手続きが求められます。身上保護においても、介護施設や病院との契約など、多岐にわたる事務処理が必要です。さらに、定期的な家庭裁判所への報告義務もあり、継続的な負担は大きいといえるでしょう。

このような重責から、親族が成年後見人になることに不安を感じる場合、制度利用を拒否することがあります。

専門家に依頼すると金銭的負担が大きくなる

専門家が成年後見人に選任されると、月額2万円～6万円程度の報酬が発生します。これは基本的に本人の死亡まで継続するため、長期的な金銭的負担となります。

さらに、特別な職務に対する追加報酬が生じる可能性もあるでしょう。

この費用負担を懸念し、本人が制度利用を拒否するケースがあります。特に、財産が限られている場合、将来の生活費や医療費への影響を心配し、ためらってしまうでしょう。

一方、親族も専門家への依頼を躊躇（ちゅうちょ）する傾向にあります。家族で対応できると考える場合や、本人の財産を減らしたくないという思いから、制度利用を拒否することがあります。

成年後見人がトラブルを起こす可能性がある

成年後見制度において、後見人による財産の不正使用が深刻な問題となっています。

特に親族が後見人となる場合、「将来相続する財産」という認識から、安易に本人の資産を流用するケースが見られます。専門家による不正も皆無ではないものの、親族と比べると発生頻度は高くありません。

このリスクを懸念し、本人が制度利用を拒否することがあります。財産管理を他人に委ねることへの不安や、信頼できる後見人が見つからない場合などが主な理由です。

一方、親族が制度利用を拒否する背景には、家族内での財産管理を望む声や、面識のない専門家への不信感があります。
また、親族が後見人として選任されることへの責任や不正疑惑を恐れ、制度自体を避けようとするケースもあるでしょう。

参考：最高裁判所「後見人等による不正事例」

成年後見制度は途中でやめることができない

法定後見制度は、一度開始すると途中で中止することが困難です。申立ての取り下げや後見人の解任には、正当な理由と家庭裁判所の許可が必要となるからです。

この制度の硬直性への見直しの動きはあるものの、本人や親族にとって大きな懸念事項となっています。

本人が制度利用を拒否する理由として、将来的な状況変化に対応できない不安や、選任された後見人との相性が悪くても変更できない可能性が挙げられます。

一方、親族が躊躇（ちゅうちょ）する背景には、家族間の事情で制度を終了できないことへの懸念があります。

参考：法務省「成年後見制度の見直しについて」

親族間のトラブルにつながりやすい

成年後見制度は、しばしば親族間の対立を引き起こす要因となります。財産の不正使用が発覚した場合はいうまでもなく、適切な管理がなされている場合でも問題が生じることがあります。

例えば、後見人となった親族に対して、他の親族が頻繁な報告や詳細な開示を求めるケースが少なくありません。

このような状況を懸念し、本人が制度利用を拒否することがあります。家族の和を乱したくないという思いや、親族間の争いに巻き込まれたくないという心情が背景にあるのでしょう。

一方、親族側も同様の理由で制度利用を躊躇（ちゅうちょ）するケースがあります。後見人となることで他の親族との関係が悪化する可能性や、財産管理をめぐる責任の重さから、制度自体を避けようとする傾向が見られます。

成年後見人でトラブルになった際の対処法

成年後見人による不正や問題が生じた場合、主に2つの対応策があります。

1つは家庭裁判所への解任請求です。後見人の義務違反や財産の不正使用が疑われる際、十分な証拠を準備して申し立てを行います。
もう1つは、損害賠償請求などの法的手段です。財産の流用が明白な場合、訴訟を通じて返還を求めることができます。

成年後見人と親族間の紛争で困っている場合は、権利擁護相談窓口への相談も効果的です。

後見人の変更は困難なものの、家庭裁判所への申し立てにより「正当な事由」がある場合に限り、可能性があります。問題解決には専門家の助言が不可欠です。

成年後見制度を利用しない方法はある？

成年後見制度を利用せずに財産管理を行う方法として、主に3つの選択肢があります。
認知症発症前の任意後見制度の活用、生前贈与の活用、そして家族信託の利用です。

個々の状況に応じて最適な選択を検討しましょう。

認知症になったら法定後見制度しか基本的に利用できない

認知症を発症すると、法定後見制度の利用が主な選択肢となります。

この制度は、判断能力が著しく低下した方の生涯にわたるサポートに適しています。法定後見人は、本人に代わって法律行為を行い、誤った契約の取り消しや必要な契約の締結が可能です。

また、弁護士などの専門家に財産管理や身上保護を委託できるため、親族の負担軽減にもつながります。ただし、ランニングコストとして報酬が発生する点には注意が必要です。

生前贈与を活用する

生前贈与は成年後見制度の下では制限されますが、判断能力がある間に財産を引き継ぐ有効な手段として注目されています。

相続と異なり、生前贈与では贈与先や時期を柔軟に選択できます。例えば、孫への財産移転も可能となり、法定相続人以外への継承も実現可能です。

ただし、贈与税や相続税の影響を考慮し、計画的に進めることが重要です。専門家に相談した上で適切に活用すれば、相続税の軽減効果も期待できるでしょう。

家族信託を活用する

家族信託は、成年後見制度の代替手段として注目されています。この仕組みでは、本人（委託者）が信頼できる家族（受託者）に財産管理を任せることができます。

家族信託の利点は、柔軟な財産運用が可能な点です。成年後見制度と異なり、不動産売却や資産運用の制限が少なく、本人の意向に沿った自由な財産管理が行えます。

ただし、信託契約の作成には専門家の助言が必要で、設定費用がかかる点に注意が必要です。適切に活用すれば、本人の意思を尊重しつつ、効果的な財産管理が実現できるでしょう。

まとめ

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援する重要な制度ですが、さまざまな理由で本人や家族が拒否したいと考えることがあります。

本人の意思尊重の問題、手続きの煩雑さ、財産管理の制限、後見人の負担、費用面での懸念などが主な理由です。

制度利用を検討する際は、これらの課題を十分に理解し、個々の状況に応じて慎重に判断することが大切です。トラブルが生じた場合の対処法や、家族信託に代表される代替案についても検討しておくとよいでしょう。

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