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少子高齢化が進む現代では、認知症対策の重要性が高まっています。
近年、成年後見制度を取り巻く環境が変わりつつあります。
成年後見制度の利用を後押しする、民法改正や成年後見制度利用促進法の制定がありました。
成年後見制度の利用を促進する法改正は今後も予想され、成年後見制度はより身近な制度になるでしょう。
今回、成年後見制度にまつわる法改正の流れを簡潔にまとめましたので、認知症対策が気になる人は参考にしてみてください。
まず、成年後見制度の基礎知識を確認しましょう。
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2つから成り立ちます。
法定後見制度と任意後見制度は内容に違いがあり、根拠となる法律も異なります。
成年後見制度を理解するためには、法定後見制度と任意後見制度を区別して整理するのがポイントです。
成年後見人制度は、判断能力の衰えた人を不利益から守る制度です。
家庭裁判所で後見開始の審判が付されると、成年後見人が選任されます。
成年後見人は判断能力が衰えた本人を支援する立場の人です。本人の財産を管理したり、身上保護をしたりします。
本人の代わりに不動産を売却したり、養護施設と契約を交わしたり、成年後見人の仕事は多岐にわたります。
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2つから成り立ち、いずれも法律に根拠がある国が認めた制度です。
法定後見制度は民法(7条)を根拠としており、任意後見制度は任意後見契約に関する法律(通称、任意後見契約法)を根拠としています。
本人の判断能力が衰えてから、裁判所に申し立てをすることで開始するのが法定後見制度です。
法定後見制度は以下の3つに類別されます。
どの類型に属するかは、本人の判断能力の程度によります。
後見は本人の判断能力が最も低下した状態です。一方で、3つのうちで本人の判断能力が最も高いのは補助です。保佐は後見と補助の中間に位置します。
本人を支援する者を、それぞれ成年後見人、保佐人、補助人といい、まとめて後見人等と表現します。
法定後見の類型 | 支援する人(後見人等) | 支援される人(本人) |
---|---|---|
成年後見 | 成年後見人 | 成年被後見人 |
保佐 | 保佐人 | 被保佐人 |
補助 | 補助人 | 被補助人 |
類型によって、後見人等に与えられる権限の広さは異なります。
保佐人や補助人に与えられる権限の範囲は、成年後見人よりも狭いです。
保佐や補助では、成年後見にくらべて本人の判断能力が高く、本人への干渉は少ないほうが望ましいからです。
必要以上に個人の行動を制限すると、本人の自己決定権の尊重という成年後見制度の趣旨に反してしまいます。
本人の判断能力があるうちに、任意後見契約を締結するのが任意後見制度です。
任意後見制度は、任意後見契約法によって整備されています。
任意後見制度では、本人と、本人が選んだ任意後見受任者(将来任意後見人になる人)が任意後見契約を結びます。
しかし、実際に後見が開始されるのは、本人の判断能力が衰えてからです。
法定後見制度と違い、任意後見制度は支援者である任意後見人の権限の内容を自由に決めることが可能です。
法定後見制度では、後見人等の権限の内容は、法律で定められた範囲内に限定されます。
本人をサポートする内容を、契約で自由に決められるのが、任意後見制度の特徴です。
個人の意思を尊重する観点からは、任意後見制度は、法定後見制度よりも優れているといえます。
ここでは、成年後見制度の根拠法と関連する法令・条文を紹介します。
前述した通り、成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度の2つがあり、それぞれ根拠となる法律が違います。
また近年になり、成年後見制度の利用に影響する法律も制定されました。
成年後見制度を利用する人は、関連する法律や主要な条文を押さえておくと良いでしょう。
法定後見制度の根拠法は民法です。
民法の7条で法定後見制度を定めています。
(後見開始の審判) 第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
引用元:民法7条
民法7条の記載のとおり、法定後見制度は本人または利害関係人の請求により開始されることが一般的です。
成年後見人の人選は裁判所の判断にゆだねられます。
民法843条では、家庭裁判所が職権で成年後見人を選任する旨を明示しています。
家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
引用元:民法843条1項
上記の通り、法定後見制度の根拠は民法にあります。
しかし、法定後見制度の内容の全てを、民法で定めているわけではありません。
手続きの具体的な取り決めや進め方は、家事事件手続法や家事事件手続規則など、民法以外の法律や規則で定められています。
任意後見制度の根拠法は任意後見契約法です。
任意後見契約法の1条で、任意後見契約法が任意後見制度について定めた旨を明示しています。
この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。
引用元:任意後見契約法1条
法定後見制度が民法を根拠にしているのに対して、任意後見制度は個別の法律を根拠としているのです。
2016年、成年後見制度利用促進法が施行されました。
成年後見制度利用促進法は、成年後見制度の利用を促すことを目的とした法律です。
成年後見制度利用促進法の施行には、成年後見制度が国民に浸透しなかった背景があります。
成年後見制度を広めるのが立法の目的である以上、今後、成年後見制度がより身近になることが期待されます。
成年後見制度利用促進法の基本理念は以下の通りです。
実際、成年後見制度利用促進法が制定されて以降、成年後見制度の3つの基本理念実現に資する、法律の改正や制度の整備が目立ちます。
成年後見制度の3つの理念を確認しましょう。
ノーマライゼーションは、本人を健常者と同等に扱うことを意味します。
自己決定権の尊重は、できる限り本人の意思を尊重し、本人への行動の制限は必要最低限度であるべきとする考えです。
身上の保護の重視は、本人の財産管理のみならず、身上の保護においても本人を厚く支援する考えです。
成年後見制度利用促進法の制定により、成年後見制度の理念を強固にする法改正や制度の創設が、今後も予想されます。
2019年、成年後見制度の改正が行われました。
2019年の改正で注目されたのは、欠格条項の廃止です。
欠格条項は、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重の観点から、これまで問題視されていました。
欠格条項の廃止により、成年後見制度の利用促進が期待できます。
欠格条項の廃止にともない設けられた、個別審査規定にも注目です。
2019年の法改正で、欠格条項が廃止されました。欠格条項は、成年後見制度利用の促進を妨げる存在として、批判されていた過去があるためです。
欠格条項とは、成年後見制度の利用を理由に、本人の職業資格に制限を課す規定のことです。
欠格条項があると、医者や税理士、会社役員、公務員など、一定の職業資格を有する本人は、以前と同様に職務に就けなくなります。
制限対象の資格は180以上もありました。
成年後見制度の利用後も仕事を継続したい本人にとって、欠格条項は成年後見制度の利用を妨げる原因になっていたのです。欠格条項の廃止で、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重が、一歩進められました。
欠格条項が廃止されるにともない、個別審査規定が設定されました。
個別審査規定は、個別に能力審査を実施することで、本人の職業資格に制限を課すべきかどうかの判断をするものです。
欠格条項を定めて一律に制限をかけるのではなく、個々の判断能力ごとに、臨機応変に対応するのが個別審査規定の趣旨です。
しかし、個別審査規定には不明瞭な部分もあります。
いつ、どのような条件下で実施されるのかなど、個別審査が行われる場合については、未だ不明です。
個別審査規定の詳細は、今後の制度運用により明らかになっていくでしょう。
2020年の民法改正で、意思能力制度が明文化されました。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
引用元:民法第3条の2
意思能力についての考え方は、以前から存在しています。
明文化される以前から、判断能力を著しく欠いた状況下での契約は無効でした。
しかし、明文化されたことで、今後、より慎重に取引が行われる可能性があります。
預金の引き出しであったり、不動産売買であったり、取引の場面において、銀行のより慎重な態度が予想されます。
意思無能力が証明され、後で取引が無効にならないよう、銀行が成年後見の申し立てを求めてくる機会が増えるかもしれません。
意思能力制度の明文化で、成年後見制度の利用件数の増加が期待されます。
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近年の法改正で、成年後見制度の利用増加が予想されます。
成年後見制度の利用を促す内容の法改正が目立つためです。
2016年の成年後見制度利用促進法の施行以降、成年後見制度の3つの理念を実現させる法改正が続いています。
2016年 | 成年後見制度利用促進法が制定 |
2019年 | 欠格条項の廃止 |
2020年 | 意思無能力の明文化 |
近年の法改正で、成年後見制度利用のハードルが下がっています。
2019年の法改正では、欠格条項が廃止されました。
欠格条項の廃止により、後見開始の審判が付されたあとも、本人は仕事の継続がしやすくなります。
欠格条項の存在した過去は、職業資格の喪失をおそれて、成年後見制度の利用を控えるケースが懸念されました。
しかし、欠格条項の廃止で成年後見制度の利用を理由として職業を失うリスクは軽減されます。
欠格条項の廃止は、成年後見制度の理念である、ノーマライゼーションや自己決定権の尊重が配慮された結果でしょう。
成年後見制度の理念を反映した法改正が、今後も続くことが予想されます。
近年の法改正により、意思能力の確認が求められるシーンの増加が見込まれます。
意思能力制度の明文化により、取引する当事者の判断能力について敏感になる意識が強くなるためです。
不動産の取引や銀行手続きの安全を求めて、取引の当事者が成年後見制度の申し立てを求めるケースが増えてくるのではないでしょうか。
現行の成年後見制度の問題を受けて、更なる法改正の動きがあります。
今のところ検討されているのは、利用時期の選択と法定後見人の交代制度です。
利用時期を自由に選択できない、法定後見人(後見人等)の交代制度がない、といった不都合が指摘されているからです。
法改正が実現されると、成年後見制度がより使いやすくなるでしょう。
利用のタイミングや終了時期について、自由な選択を認める法改正の動きがあります。
現在の制度では、成年後見制度を利用する期間や終了時期を自由に選べず、利便性の点で劣るためです。
現行の制度では、いったん成年後見が開始すると取り消されない限り、本人が死亡するまで継続します。
しかし、死亡まで後見人等がつくとなると、後見期間が長期にわたりコスト面で不便です。
不動産の購入時のみ成年後見制度を利用するなど、後見人等がつく期間を選べるほうが利便性は向上します。
自己決定権の尊重の観点からも、本人に後見人等がつく期間は必要最低限度が望ましいです。
今後、利用期間が自由に選べるよう、成年後見制度が見直される可能性があります。
法定後見人の交代を可能にする法改正も検討されています。
現行の制度では、後見人等の選任後の交代は基本的に予定されていません。
しかし、状況に応じて、適切な後見人等は変わるはずです。
不動産の購入を理由に後見人等を選ぶのであれば、不動産に詳しい専門家を後見人等に選ぶほうがいいでしょう。
ただし不動産の購入以降も、当該専門家が後見人等として就任するのが適切かといえば疑問です。
不動産の購入後に相続の問題が発生すれば、相続に詳しい専門家へ後見人等の役割を引き継ぐのが本人のためです。
法定後見制度の利便性向上のためにも、法定後見人の円滑な交代を認める法改正が検討されています。
成年後見制度の問題点を回避するには、家族信託が有効です。
本人の財産管理を第三者に任せる点で、家族信託は成年後見制度と共通します。
しかし家族信託は、成年後見制度よりも自由度が高いです。
改善の方向で動いているものの、成年後見制度には使い勝手の良くない側面があります。
例えばコスト面の問題です。
成年後見制度は、本人が死亡するまで後見人に報酬を支払い続ける仕組みになっています。
法改正で成年後見制度の利用期間が見直されれば、コストの問題は解消されるかもしれません。しかし、改正は未だ検討段階です。
家族信託は、設計段階では費用が発生するものの、成年後見制度と異なり継続的に費用が発生しない仕組みにすることができます。
長期で考えると、家族信託は成年後見制度よりもコストを抑えられる可能性が高いです。
成年後見制度の弱点は、法改正を待たずとも、家族信託の利用で解消される場合があります。
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ここでは、成年後見制度でよくある質問についてまとめました。
法定後見制度の利用には、以下の費用が発生します。
上記を合算するとおよそ2万円程度です。
任意後見制度の利用(契約締結時にかかる費用)には、以下の費用が発生します。
上記を合算するとおよそ2万円程度です(ただし、任意後見契約書の作成を専門家に依頼した場合は、専門家に支払う報酬が発生します)。
上記は、成年後見制度の利用にあたり、必ずかかる費用です。
その他に、成年後見の申し立て手続きを専門家に依頼する場合、弁護士や司法書士に支払う報酬が発生します。事案によりますが、報酬の相場は10~30万円程度です。
また事案によっては、裁判所から鑑定を求められるケースがあります。その場合、5~10万円程度の鑑定費用が必要です。
成年後見制度の利用が促されているのは、成年後見制度の利用が広まっていないためです。
成年後見制度は、高齢社会に必要な制度です。
しかし、成年後見制度は利便性の点で問題が指摘され、政府が期待するよりも普及してない現実があります。
近年、成年後見制度に関する法改正が相次いでいるのは、成年後見制度の利便性を高め、成年後見制度の利用頻度を増やすためです。
成年後見制度を取り巻く法律は変化しています。
近年になって行われた、成年後見制度関連の法改正は以下の通りです。
相次ぐ法改正で、成年後見制度がより身近になっているのは間違いありません。
しかし、認知症対策で大切なのは、1つの制度にとらわれない、総合的な判断です。
成年後見制度より家族信託の利用が、目的にかなう場合もあります。
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