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超高齢社会を背景に、成年後見人という言葉を目にすることも多くなりました。しかし、成年後見人の権限と限界を理解するには、高度な専門知識が必要になります。
この記事では、成年後見人にできること、できないことをわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。
成年後見人の仕事は、大きく分けると「財産管理」と「身上保護」の2つがあります。成年後見人が、これらの後見事務を行うにあたっては、本人の自己決定権を尊重しなければいけません。
成年後見制度における財産管理とは、被後見人を代理して、被告人の財産を保存・維持する行為です。
財産管理は、①財産に関する契約を結ぶ、②必要な費用を支払うの2つに分けられます。
後見人は、①②を被後見人を代理して行います。財産管理は銀行口座で行います。
銀行に後見の届出をすると、口座名義が「成年被後見人 〇〇一郎 成年後見人 △△花子」のように、成年後見制度を利用していることがわかるようになります。
以降、成年後見人以外の人は口座からお金を引き出すことが出来なくなります。
成年後見制度における身上保護とは、判断能力が低下して、自分で身の回りのことを行うことが難しくなった場合、代わってその世話をすることです。
世話をするといっても、成年後見人が車いすを押したり、食事の介助をしたりといった事実行為をするわけではありません。
成年後見人が、被後見人に代わって、身上面での法律行為を行うことで、被後見人の生活や療養看護の支援をします。
例えば、食事や入浴の介助の必要があれば、誰に任せるかを判断し、そのための契約を結んだり、費用を支払ったりすることが、成年後見人の仕事です。
成年後見人には、被後見人の利益を保護するために、様々な権限が与えられています。同時に、権限とは表裏一体の厳しい義務も課せられています。
成年後見制度には、①法定後見制度、②任意後見制度の2つがあります。
法定後見制度は、本人の判断力が衰えた場合に、親族などが家庭裁判所に申し立てを行い、本人の利益を保護する制度です。法定後見制度には、本人の判断力に応じて、⒜後見、⒝保佐、⒞補助の3つのタイプがあり、本人をサポートする人をそれぞれ、後見人、保佐人、補助人といいます。後見人等には、タイプごとにそれぞれ、取消権・同意権・代理権が与えられます。
任意後見制度は、本人と受任者との間で任意後見契約を結び、将来、本人の判断能力が衰えたときに備えるための制度です。任意後見契約の形式は、公証人の作成する公正証書によることが必要です。本人の判断力が低下したときに家庭裁判所に申し立てをすることで、任意後見人の業務を監督する任意後見監督人が選任されます。
これにより、任意後見制度が開始されるのです。本人が、任意後見人や後見の内容などを決定できるというメリットはありますが、任意後見制度は契約なので、その前提となる意思能力がないと利用できないというデメリットがあります。
後見、保佐、補助のタイプにより下記の権限が与えられます。
取消権とは、一定の法律行為を後から取り消す権限のことをいいます。後見人等は、被後見人の法律行為が被後見人の不利益になる場合、これを取り消すことが出来ます。
一定の法律行為を代理する権限のことをいいます。後見人等が被後見人を代理すると、その法律行為は被後見人がしたものとみなされます。後見人等は、包括的な代理権を与えられていますが、身分行為など一定の法律行為は代理できません。
被後見人の法律行為をあらかじめ了承する権限です。同意権は保佐人と補助人に与えられていて、後見人には与えられていません。保佐人や補助人は、本人の法律行為の前に、その法律行為の必要性や本人の意思を考慮して同意を与えるか判断します。被保佐人や被補助人は後見人と違い、本人に判断能力があるので、より本人の意思決定を尊重する必要があるからです。
任意後見人の権限は、任意後見契約により定められた、本人の生活、身上保護、財産管理に関する後見事務につき与えられる代理権のみです。取消権・同意権はありません。
任意後見人の権限が制限されている理由は、本人の自己決定権を尊重するという、任意後見制度の理念からきています。
任意後見人に取消権・同意権がないことは、本人が自由に法律行為を行なえるというメリットがあります。
しかし、本人が不利な契約を結んだ場合に、任意後見人として取り消すことができません。
本人の意思決定をより尊重した結果、本人の保護は弱くなっています。
善管注意義務とは、被後見人の財産管理業務を委任された人の能力、職業、社会的地位などから考えて一般的に期待される注意義務のことです。
通常の注意義務に比べ、要求される注意義務の程度はかなり高くなります。
成年後見人には、成年後見制度の趣旨に従って、財産管理、身上保護に関して善管注意義務を負います。
成年後見人が後見事務を遂行する際に、善管注意義務を怠ったために被後見人に不測の損害を与えた場合には、被後見人に対して損害賠償を負う可能性があります。また、事情によっては成年後見人を解任される場合もあります。
身上配慮義務とは、成年後見人が、被後見人の財産管理や身上保護を行うに当たって、被後見人の意思を尊重し、被後見人の心身の状態や生活状況に配慮する義務のことです。
成年後見人は、代理権・同意権・取消権を使い、被後見人の利益を保護しますが、これらの権限の行使は、時には被後見人の自己決定権に対する制約や否定になることもあります。
成年後見人は、権限を行使する際に、被後見人の自己決定権の尊重と現在どれくらいの判断力を有しているのかを考慮しなければなりません。
成年後見人に出来ることを、⑴入出金の管理、⑵被後見人の資産管理、⑶社会保険・税金などの3つに分けて列挙します。
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成年後見人は、被後見人の財産管理のため包括的な権限を与えられています。
しかし、被後見人が食料や衣料品などの日用品を購入した場合、取り消せません。
理由は以下の2つです。
成年後見制度は、被後見人の自己決定権を尊重しつつも、被後見人の利益を保護することを目的としています。
成年後見人が、日用品の購入まで管理するのは、被後見人への過干渉であり、自己決定権への侵害とも考えられます。
なお、購入した物品が日用品に当たるかどうかは、被後見人の収入や資産の状況、その物品の必要性などを総合的に考慮して判断します。
生活や健康管理のための労務の提供を、事実行為といいます。成年後見人が出来るのは法律行為の代理であり、事実行為の代理は出来ません。
ここが、成年後見制度で最も誤解されているところです。
事実行為には、以下の行為があります。
これらの行為は、成年後見人が介護サービスと契約をすることで、被後見人が介助を受けられるようにします。契約をした後、介護サービスが適正に供給されているかを監視することは、成年後見人の事務に含まれます。
養子縁組・婚姻・離婚・子の認知・遺言書作成を、成年後見人は代理できません。これらの行為を身分行為といい、本人の自己決定権を最も尊重すべき行為だからです。
身分行為は、被後見人に一身専属的なものであり、成年後見人の代理になじみません。本人が、身分行為を行なう意志をはっきりと表明しているのであれば、成年後見人がこれらの行為に同意したり代理することで関与することは、本人の自己決定権への侵害にあたります。
成年後見人は、被後見人が介護施設などに入所する際に、保証人や身元引受人になってほしいと言われることがあります。これは、施設利用料金の滞納分を代わりに払ってほしいとか、被後見人が退所する際に引き取ってほしいという病院側のリスク回避のためです。
しかし、成年後見人は保証人や身元引受人になることはできません。成年後見人は、本人と同じ立場で法律行為を行い、成年後見人の行為は本人の行為とみなされます。
成年後見人が保証人になるということは、本人が本人の保証人になるという矛盾が生じます。成年後見人が、被後見人の保証人や身元引受人になった場合、家庭裁判所から成年後見人を解任される可能性があります。
成年後見人になると、介護施設に入所する場合と同様に、被後見人が医療行為を受ける際に、同意を求められることがあります。
しかし、成年後見人に医療行為の同意権はありません。
もし、成年後見人が同意書にサインしても、その同意に法的な効力はありません。
そもそも、医療行為、特に手術などの身体侵襲行為は、本人の自己決定権が特に尊重されなければならないものです。
自分の受ける医療行為の選択は本人がするべきであり、医療行為への同意は本人だけができる行為です。
成年後見人は、基本的に被後見人の法律行為について単独で権限を行使できます。
しかし、被後見人の居住用住宅の売却について、成年後見人は家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申し立てをして、許可を得る必要があります。
理由は、被後見人にとって、住環境の変化は精神上にも生活上にも大きな影響を与えるためです。
居住用住宅には以下の3つがあります。
家庭裁判所の許可を得ずに、居住用不動産を売却した場合、その売却は無効になります。また、居住用不動産の処分には、売却だけではなく、賃貸、使用貸借等があり、これらの行為をする場合も、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
成年後見人と被後見人の利益が衝突する行為を、利益相反行為といいます。例えば、成年後見人と被後見人が兄弟で、亡くなった父親の遺産分割協議を行うとします。
この場合、成年後見人と被後見人が同じ相続人という立場になり、成年後見人が被後見人を代理して、成年後見人の遺産を多くするよう遺産分割をする可能性があります。
それでは、成年後見制度の信頼が揺らいでしまいます。利益が衝突する場合、成年後見監督人が選任されているのなら、成年後見監督人が被後見人を代理して遺産分割協議を行います。
成年後見監督人が選任されていない場合、成年後見人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申請し、選任された特別代理人が被後見人を代理します。
以下の例は、利益相反行為にあたります。
死後事務とは、成年後見人がその職務として成年被後見人の死亡後に行う事務のことです。
従来、成年後見人の職務は、原則、被後見人の存命時のみ行われ、被後見人の死亡により、後見は当然に終了し、その後の事務処理は相続人が行なっていました。
しかし、成年後見人には以下の事務処理が期待されていました。
そこで平成28年の法改正(民法873条の2)により、一定の要件を満たせば、成年後見人が死後の事務を職務として行えるようになりました。なお、死後事務を行なえるのは、成年後見人だけで保佐人や補助人、任意後見人は行なえません。
成年後見人ができる死後事務は以下の通りです。
成年後見人は、包括的に被後見人を代理する権限を持っています。そのため、基本的に成年後見人は被後見人の財産を処分できます。
しかし、成年後見人制度の趣旨は被後見人の自己決定権を尊重しつつ、被後見人の財産的な利益を保護するというものです。被後見人の財産を処分する前に、成年後見人は、被後見人とよく話し合い、本人の意向に沿った形で処分するのが望ましいといえます。
また、居住用の住宅を処分する際には、家庭裁判所の許可が必要になり、成年後見人は単独で処分できません。
成年後見は、その期間が長期にわたることがあります。その間、判断能力を有していた被後見人が、認知症の悪化などで判断能力が著しく低下し、1人で生活するのが困難になる可能性もあります。
その場合、成年後見人は、新たな住居を確保する必要があります。被後見人の家族との同居や介護施設への入所などが考えられますが、本人が嫌がった場合、成年後見人は、被後見人の身体の強制を伴う行為はできません。
成年後見制度は、本人の自己決定権を尊重する制度だからです。そのため、親族の家への転居や介護施設への入所など、本人の意思に反して強制することはできません。
ただし、成年後見人は家族や被後見人と転居などの必要性を話し合い、説得を続けることが必要です。
成年後見人は、取消権・代理権・同意権などの権限を使い、後見事務を行います。
しかし、成年後見制度の趣旨である、本人の自己決定権の尊重と本人の財産権の保護という観点から、様々な制約があります。
特に、被後見人の日常生活の介助などは、一般的に誤解されている方が多いところです。
このように、成年後見人ができないことは、非常に多く、理解するには専門的な知識が必要になります。
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