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相続は誰にも起こりうることです。しかし、その手続き方法や期限について知っている人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、相続手続きごとの期限や期限を過ぎた場合に起きるデメリットについて詳しく解説しています。また、熟慮期間の伸長方法についても詳しく解説しているので、最後までお読みください。
田中 総
(たなか そう)
司法書士
2010年、東証一部上場の不動産会社に新卒で入社し、10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画・アセットマネジメント等の様々な業務に従事。
法人営業では遊休不動産の有効活用提案業務を担当。
経営企画では、新規事業の推進担当として、法人の立ち上げ、株主間調整、黒字化フォローの他、パートナー企業に出向して関係構築などの業務も経験。
司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。
田中 総
司法書士資格保有/家族信託コーディネーター/宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター
東証一部上場のヒューリック株式会社 入社オフィスビルの開発、財務、法人営業、アセットマネジメント、新規事業推進、経営企画に従事。2021年、株式会社ファミトラ入社。面談実績50件以上。首都圏だけでなく全国のお客様の面談を対応。
相続手続きの中には、期限があるものがあります。
大きく分けると、①6カ月以内に期限がくる手続き、②1年以内に期限がくる手続き、③1年以降に期限がくる手続きがあります。
では、期間の起算日はいつでしょうか。
「相続開始日」あるいは「相続開始を知った日」が、起算日になります。「相続開始日」は被相続人の死亡した日、「相続開始を知った日」は被相続人の死亡を知った日のことです。
7日以内に期限がくる手続きとして、以下の3つが挙げられます。
各手続きの詳細について以下で見ていきましょう。
死亡診断書は、被相続人が死亡したことを医学や法律の点から証明する書類であり、被相続人の死後、7日以内に受け取る必要があります。
死亡診断書がなければ、法的には生存していることになるため、相続手続きが始められません。
被相続人が病院で亡くなった際には、診察を担当した医師により死亡診断書が作成されるため、死亡診断書を受け取るための手続きは不要です。
また、被相続人が自宅で亡くなった際、生前、病院で診療を受けていれば主治医により死亡診断書が作成されます。
一方、生前、病院で診療を受けていなければ、死亡診断書ではなく死体検案書が作成されます。
書式や効力は死亡診断書と同じであるため、死体検案書が作成された場合にも必ず受け取るようにしてください。
死亡届の提出は、被相続人が死亡したことを知った日から7日以内にしなければなりません。
死亡届は死亡診断書(死体検案書)と一体化しているため、死亡診断書(死体検案書)を受け取ったら死亡届の記入も行います。
死亡届は、親族や同居者、家主・地主・家屋管理人・土地管理人のいずれかによる直筆で記入される必要があります。
一方、死亡届の提出は代理人が行うことも可能であるため、役場の窓口に死亡届を提出するのが難しい場合は、葬儀会社などに代行してもらってもよいでしょう。
火葬許可証申請書とは、亡くなった人の遺体の火葬を許可する書類です。
火葬の許可を得る書類であるため、土葬の場合には受け取りが不要ですが、日本では99.9%以上の割合で火葬が選択されているため、ほとんどの場合で受け取りが必要になるでしょう。
火葬許可証申請書の提出期限はありませんが、一般的には葬儀の日に火葬が行われるため、死亡届と同時に提出することがおすすめです。
代理人による提出も認められているため、死亡届と同様、葬儀会社などに代行してもらうことも選択肢に入れてみてください。
14日以内に期限がくる手続きとして、以下の2つが挙げられます。
各手続きの詳細について以下で見ていきましょう。
世帯主が亡くなり、住民票の上で同じ世帯に暮らす人が複数人いる場合、世帯主の変更届を提出する必要があります。
世帯主の変更届の提出は、住民基本台帳法第25条により、世帯主が変更された日から14日以内に行わなければならないと定められています。
死亡届の提出よりはやや時間に余裕がありますが、それでも2週間以内に手続きを済ませなければならないため、早めに手続きを行うことがおすすめです。
世帯主の変更届の提出は代理人により行うことも可能ですが、代理人に依頼する場合は委任状や代理人の本人確認書類、印鑑が必要になるため、事前に準備しておきましょう。
国民年金の受給停止手続きも、14日以内に行う必要があります。
具体的には、受給権者死亡届(報告書)を年金事務所か年金相談センターに提出します。
受給権者死亡届(報告書)を提出する場合には、以下の書類を添付する必要があるため、忘れないようにしましょう。
なお、日本年金機構にマイナンバーが収録されている場合、受給権者死亡届(報告書)の提出は原則として不要です。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産に関する一切の権利・義務の承継を拒否することです。
手続きは、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄の申述をします。
申述は、相続開始を知った日から3カ月以内にしなければなりません。
この3カ月間を「熟慮期間」といい、相続財産の調査をし、相続するか否かの判断をする期間とされています。
相続放棄の申述をせずに3カ月が経過すると、単純承認したものとみなされます。
限定承認とは、相続財産のプラスの範囲内でマイナスの財産を相続することです。
例えば、プラス財産が100万円でマイナス財産が200万円だった場合、マイナス財産は100万円までしか相続しません。
手続きは相続放棄と同様に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に限定承認の申述をします。
申述の期間も相続放棄と同様に、相続開始を知った日から3カ月以内にしなければなりません。
相続放棄との違いは、相続人全員で申述する必要があることです。
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得に対する確定申告のことです。
1月1日から被相続人が死亡した日までの所得と税額を計算し、相続人が申告と納税をします。
申告と納税は、相続人全員が共同で、相続開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に行わなければなりません。
準確定申告は必ずすべきものではなく、亡くなった人に所得がなければ必要ありません。
準確定申告が必要なケースは以下の5つです。
相続をしたからといって、必ずしも相続税が発生するわけではありません。
国税庁の「令和3年分 相続税の申告事績の概要」によれば、被相続人が1,439,856人であるのに対し、相続税を申告した人は134,275人となっており、課税割合は約9.3%となっています。
相続税には基礎控除という制度があり、遺産総額が基礎控除額以下の場合、相続税は課税されません。
相続税の基礎控除の計算方法は以下のとおりです。
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の人数)
遺産総額が基礎控除額を超えた場合、「相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内」に相続税の申告をすることになります。
家族が亡くなったら、被相続人の財産をどのように相続するかを決める遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議で合意した内容を記したものを遺産分割協議書と呼び、必要に応じて税務署や法務局、金融機関などに提出します。
遺産分割協議および遺産分割協議書の作成には、期限が定められていません。
しかし、相続税の申告・納付期限が被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内であるため、それまでに遺産分割協議および遺産分割協議書の作成を終わらせておくのが理想的です。
なお、相続人が1人の場合や遺言書に記載のとおりに相続を行う場合、遺産分割協議および遺産分割協議書の作成は不要です。
預貯金等の解約・名義変更も10カ月以内に行うことがおすすめです。
遺産分割協議および遺産分割協議書の作成と同じく、預貯金等の解約・名義変更にも期限が定められていません。
しかし、前述のとおり、相続税の申告・納付期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内です。
そのため、遺産から相続税を支払いたいと考えている場合には、預貯金等の解約・名義変更も10カ月以内に行うのがよいでしょう。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限保証される遺産の取り分のことです。
被相続人の遺言や贈与により法定相続人の遺留分が侵害された場合、侵害された遺留分に相当する金銭の請求ができます。
これを、「遺留分侵害額請求権」といいます。
遺留分侵害額請求権は、以下の2つの場合に消滅します。
高額療養費とは、医療費の高額負担により家計が圧迫されないようにするため、医療機関・薬局の窓口で支払った医療費が各月の1日から末日までの間で上限額を超えた場合、超えた分の金額が支給される制度のことです。
特に、亡くなる直前には長期間にわたる入院や手術を行うことが少なくないため、医療費が高額となり、高額療養費の支給対象になっているケースが多くあります。
高額療養費の支給期限は、診療を受けた月の翌月初日から2年間と定められているため、どれだけ遅くても、亡くなってから2年間のうちに請求手続きをすることが必要です。
期限を過ぎた場合、本来受け取れるはずのお金が受け取れなくなってしまうため、早めに手続きすることをおすすめします。
2024年4月1日より、相続登記が義務化されます。
所有者不明土地の発生を防止するための法改正です。
相続により不動産を取得した相続人は、相続登記の申請をしなくてはいけません。
期限は相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内です。
正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料が課せられることがあります。
正当な理由には以下のものがあります。
死亡保険金の請求は、保険法第95条に基づき3年で時効になります。
被保険者死亡後に保険料を支払っていた場合、保険料返還請求権も3年で時効になります。
消滅時効の期間が過ぎてしまった場合、保険金の請求はできないのでしょうか。
3年が過ぎても自動的に請求権が消滅するわけではありません。保険会社が消滅時効を主張してはじめて、請求権が消滅します。
実際に、以下のようなケースでは支払に応じる場合があります。
相続税を納めたが後に納めすぎていたことが判明した場合、納めすぎていた分を還付請求することができます。
期限は、「相続開始を知った日の翌日から5年10カ月」以内です。
相続財産に不動産が含まれている場合、申告税額の計算を誤ることが多いです。
税務署は納税額が少なかった場合は不足分を納めるよう指摘しますが、多かった場合は決して自ら還付したりしません。
そのため、多く収めた場合、気付かないことも多くあります。
法律上は期限がない手続きでも早めに行っておかないと、後の期限がある手続きに影響がでるなど問題が起こる可能性があります。
期限のない相続手続きには以下のものがあります。
それぞれ詳しく解説します。
遺言書の検認には法律上、遅滞なく行う旨定められていますが、具体的な期限はありません。しかし、検認が終わらなければ相続登記や預金口座の名義変更など全ての相続手続きが遅れてしまいます。
特に、相続放棄や限定承認は、相続開始から3カ月と期限が短いので気をつけましょう。
通常、検認には1カ月ほどかかるので、そのことも考慮し遺言書を見つけた後速やかに検認の申し立てをしましょう。
一般的には、遺言書がなければ相続人同士で遺産分割協議を行い、遺産の取り分を決めます。
遺産分割協議に期限はありませんが、①と同様にその先の相続手続きが進まなくなるので、速やかに遺産分割協議を行いましょう。
相続財産に銀行の預金口座がある場合、10年間名義変更や解約払い戻しをしないと、休眠口座となってしまう可能性があります。
休眠口座になると、民間公益活動に活用されます。
期限内に相続手続きをしなかった場合、以下6つのデメリットが生じる可能性があります。
相続税の軽減措置の中に、「小規模宅地の特例」と「配偶者控除」があります。
前者は、被相続人が住居などに使用していた宅地を相続した場合、330㎡までは評価額が8割減額される特例です。
後者は、被相続人の配偶者の相続税が少なくとも1億6,000万円まではゼロになる制度です。
これらの減税措置を受けるには、以下2つの条件があります。
したがって、遺産分割協議が長引けば、これらの軽減措置を受けられない可能性があります。
相続税の申告を期限までにしなければ「無申告加算税」がかかり、さらに納税を期限までにしなければ「延滞税」がかかります。
一般的には、申告→納税の順となるのでこれらは同時にかかる事になります。
無申告加算税の税率は、原則として50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%です。
また、令和6年4月1日からは相続登記が義務化され、正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料となる可能性があります。
手続きをしなければ時効により、請求権が失われるものがあります。
請求権が失われた結果、受け取れる遺産が減ることになります。
遺留分侵害額請求権の時効は、被相続人による生前贈与または遺贈があったことを知った日から1年です。
死亡保険金の請求は、保険法第95条により相続が開始した日の翌日から3年で時効で消滅します。
銀行口座の名義変更や解約払い戻しに期限はありませんが、10年経過で休眠口座となり民間公益季活動となる可能性があります。
相続税を払いすぎた場合は、税務署に申告することにより過剰納付分の還付を受けられます。
ただし、還付請求は相続開始を知った日の翌日から5年10カ月で消滅します。
相続財産の中に株式があると、遺産分割協議が終わるまでその株式は共同相続人間で共有(準共有)されます。
株式の準共有が特に問題になるのが、被相続人が株式を単独所有していた場合です。株式の準共有者である相続人同士が対立し、会社の意思決定に支障が出る可能性があります。
準共有者が株式上の権利を行使するには、相続人間で権利行使者を1人決め、これを会社に通知する必要があります。
権利行使者の指定は共有者全員の同意までは必要なく、持分価格の過半数で決めることができます。
相続手続きが長引くと、相続人の状況が変わることも考えられます。
相続人が亡くなったり、認知症を発症したりすると、相続が複雑になります。
相続人が亡くなると、さらに相続が発生し相続人の人数が増え複雑化していきます。
遺産分割協議は全ての相続人で行うので、相続人の中に1人でも非協力的な人がいると、遺産分割協議はまとまらなくなってしまいます。
また、相続人の中に認知症を発生したり行方不明になったりした人がいた場合も同様です。
そのような事態にならないように、相続の手続きは早めに進めるべきです。
相続により不動産を取得しても、利活用する計画がなければ維持費や税金の支払い、管理の手間がかかるだけでメリットが得られません。
そこで、相続により取得した不動産を売却しようと考える方もいるでしょう。
しかし、相続手続きが遅くなると、取得した不動産を売却できなくなる可能性があります。
不動産を売却する手続きを行う際には売却する人が名義人になっている必要がありますが、不動産の相続登記をしなければ、不動産の名義人は亡くなった人のままです。
そのため、相続手続きが遅い場合には取得した不動産を売却できない可能性があるため、早めに相続手続きを行うことをおすすめします。
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相続の手続きの中には、期限の伸長が出来るものがあります。
単純承認・限定承認・相続放棄の熟慮期間である3カ月は伸長できる場合があります。
単純承認・限定承認・相続放棄を選択するための熟慮期間は相続開始を知った時から3カ月です。
しかし、この熟慮期間内に相続人が相続財産や相続関係者を調査しても、単純承認・限定承認・相続放棄を選ぶことが難しい場合があります。
この場合、家庭裁判所は、相続人の申し立てにより、熟慮期間を伸長できます。
熟慮期間を伸長できるのは以下の2つのケースです。
相続財産が全国、あるいは海外にまで散らばっており、調査に時間がかかる場合があります。
また、複数の金融機関や消費者金融、さらには個人にまで借金があり、債権者と金額の特定に時間がかかる場合もあります。
このような場合、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれを選択するかを決めるのは困難です。
相続財産の調査が煩雑で時間がかかるケースでは、熟慮期間が伸長できるのです。
そもそも相続人が多かったり、相続人の調査をしたところ知らない相続人が出てきたり、行方不明の相続人がいた場合など、全ての相続人と連絡を取るためには、熟慮期間を伸長する必要があります。
申し立てができる人は利害関係人もしくは検察官です。
申し立ては被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にします。
相続人1人につき800円分の収入印紙と連絡用の切手が必要です。
その他、被相続人と申立人との関係により必要な書類が異なります。
相続の開始を知った時から3カ月以内に申し立てをする必要があります。
相続税の申告期限は相続開始があったことを知った日の翌日から10カ月ですが、それまでに遺産分割協議が成立しない場合もあります。
遺産分割協議が成立しなくても相続税の申告期限が自動で延びることはありません。
その場合、各相続人が法定相続分の遺産を取得したものとして相続税を計算して、申告と納税をしなければなりません。
その際に注意すべきことは以下の2つです。
もし将来、特例を受けたいのであれば、相続税申告と同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」も提出しましょう。
申告期限から3年以内に遺産の分割が決定した場合、特例が適用されます。
遺産の評価とは、遺産の客観的な価値を算定すること、つまり時価を算定することです。
遺産に不動産が含まれている場合、相続人間で揉めることがあります。
不動産の評価額に関して他の相続人が納得しない場合、遺産分割調停をおこない、家庭裁判所を通じて不動産鑑定士に鑑定を依頼します。
不動産鑑定士の調査により不動産鑑定評価書が作られると、それを基に不動産の評価額を決定します。
相続の手続きには様々な期限があり、期限を徒過した場合、重大な問題が発生する場合もあります。
例えば、限定承認・相続放棄の手続きが3カ月の期限を過ぎると、単純承認となり、以降、限定承認や相続放棄はできなくなるのです。
また、その手続き自体に期限はなくても、その手続きが後の手続きの前提になっている場合もあります。期限がないといっても、早めに手続きを完了することが望ましいです。
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