家族信託ってなに?メリット・デメリット・費用・始め方などをまとめてご紹介!

家族信託とは
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日本は超高齢社会となっており、認知症患者も年々増え続けています。そのため、自分の判断能力がはっきりしているうちに認知症対策ができる家族信託が注目されています。

家族信託は比較的新しい制度のため、馴染みのない方もいらっしゃるでしょう。この記事では、家族信託とは何か、家族信託のメリット・デメリット、家族信託の手続き、家族信託にかかる費用など、家族信託全般について解説します。家族信託とは何かを知るきっかけとしてご活用ください。

この記事の監修者

田中 総
(たなか そう)
司法書士

2010年、東証一部上場の不動産会社に新卒で入社し、10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画・アセットマネジメント等の様々な業務に従事。
法人営業では遊休不動産の有効活用提案業務を担当。

経営企画では、新規事業の推進担当として、法人の立ち上げ、株主間調整、黒字化フォローの他、パートナー企業に出向して関係構築などの業務も経験。
司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。

この記事の監修者
司法書士 田中 総

田中 総

司法書士資格保有/家族信託コーディネーター/宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター

東証一部上場のヒューリック株式会社 入社オフィスビルの開発、財務、法人営業、アセットマネジメント、新規事業推進、経営企画に従事。2021年、株式会社ファミトラ入社。面談実績50件以上。首都圏だけでなく全国のお客様の面談を対応。

目次

最近メディアや雑誌で取り上げられている家族信託とは?分かりやすく解説

家族信託とは?

親が認知症などを発症した場合に起こりうる最も重大なデメリットは、金融口座の凍結でしょう。金融口座が凍結されると、本人であっても口座のお金を引き出せなくなります。年金などの生活費も引き出せなくなってしまうので、まさに死活問題です。

このようなデメリットを解決する手段の1つが家族信託です。同様の制度として成年後見制度がありますが、家族信託はより柔軟な財産管理ができることから、近年注目されています。

家族信託はこんな制度!家族信託の「仕組み」のやさしい解説

ここでは、家族信託の仕組みについて説明していきます。

まず「信託」とは、「ある人(委託者)が、自分の所有する財産を信頼できる人(受託者)に託し、一定の目的に従って管理・運用・処分してもらう仕組み」のことです。

信託の関係者は主に3者います。

  • 委託者(本人)……財産を預ける(信託する)人
    ※ここで委託する財産を「信託財産」と呼びます。
  • 受託者(家族など信頼できる人)……財産を預かり(委託されて)管理・運用する人
  • 受益者(恩恵を受ける人)……信託財産から生じる利益を得る人

関係性を図で表すと、次の図のようになります。

家族信託のしくみ

※認知症対策の信託は多くの場合、委託者と受益者が同一人物となります。この形は「自益信託」と呼ばれ、所有権のみを受託者へ移すことになります。つまり、信託財産の実質的な所有者は受託者ではなく受益者となるため、贈与税などは課税されません。

受託者の責任や仕事となれる人

受益者とは、信託財産から生じる利益を受け取る権利を有する人のことです。受益者には、受託者が信託契約の内容に沿って受益者のために信託財産を管理・運用・処分しているかを監督する役割があります。

受託者の役割は、上述したように、受益者のために信託財産を信託契約の内容に沿って信託財産の管理・処分・運用することです。受託者には大きな権限が与えられるので、権限の濫用防止と受益者の利益の保護のため、重い義務を負っています。

受託者の主な義務は以下のとおりです。

  • 自己執行義務
  • 善管注意義務
  • 忠実義務
  • 利益相反行為の禁止義務
  • 公平義務
  • 分別管理義務
  • 帳簿等の作成等・報告・保存の義務
  • 損失填補義務

受益者の権利や役割となれる人

受益者は、信託財産から生じる利益を受ける権利だけではなく、自分の利益を守るための権利(受益権)を与えられています。

受益権の主なものは以下のとおりです。

  • 受託者の権限逸脱行為や、利益相反行為に対する取消権
  • 帳簿の閲覧などの請求権
  • 損失補填請求権
  • 原状回復請求権

受益者は、特定の者であれば、個人・法人を問わずになることができます。

例えば以下の者が、受益者になれます。

  • 委託者
  • 委託者以外の個人
  • 法人(株式会社、合同会社、一般社団法人、一般財団法人など)
  • 権利能力なき社団

ただし、受託者と受益者が同一になった場合、その状態が1年継続すると家族信託自体が終了します。

信託財産として託せる財産の種類

信託財産として託す財産には、法律上の制限はありません。基本的に財産上の価値があるものであれば、信託財産とすることができます。

ただし、年金受給権のような一身専属的な財産については、信託財産の対象とすることができません。

また、不動産の中でも「農地」は、家族信託の運用上、信託財産とすることが困難です。登記簿上の地目が「畑」や「田」になっている土地を信託する場合は、農業委員会の許可が必要となりますが、許可されることが難しいためです。

信託財産の例

不動産、現金、有価証券(株式、投資信託、債券など)、絵画、骨とう品、車、バイク、船舶、著作権、特許権などの知的所有権、家畜やペット など

成年後見制度や他の信託サービスと家族信託の違いを分かりやすく解説

比較

家族信託以外の資産凍結を回避する手段としては、以下のものがあります。

  • 法定後見制度:認知症発症後に裁判所に申し立てをし、法定後見人を選んでもらい、財産管理と身上保護をしてもらう
  • 任意後見制度:被後見人が、自ら任意後見人を選び、財産管理と身上保護をしてもらう
家族信託法定後見制度任意後見制度
概要財産管理財産管理と身上保護財産管理と身上保護
財産の承継先の指定数次にわたってできるできないできない
メリット財産管理の自由度が高い・財産承継ができる法定後見人に取消権がある任意後見人を自分で選べる・申し立てから就任までが短期間
デメリット原則、認知症になった後は、使えない・身上保護ができない法定後見人を自分で選べない原則、認知症になった後は、使えない・任意後見人に取消権がない

家族信託と成年後見制度はどう違う?

家族信託は、委託者本人の判断能力があるうちに当事者間で締結する契約です。一方、成年後見制度は、本人の判断能力が低下したあとで家庭裁判所に選任の申立てを行う制度です。

家族信託は、契約なので委託者本人が財産を管理する受託者を選任します。成年後見制度では、財産を管理する後見人の選任を裁判所が行います。

他にも、家族信託は財産管理のための契約であるため、身上保護のための契約はできません。このように、家族信託と成年後見制度では、さまざまな相違点があります。

法定後見制度との違い

家族信託は、委託者本人の判断能力があるうちに当事者間で締結する契約です。一方、法定後見制度は、本人の判断能力が低下した後で家庭裁判所に申し立てを行う制度です。

家族信託は契約なので、委託者本人が財産を管理する受託者を選任します。一方、法定後見制度では、財産を管理する法定後見人の選任を裁判所が行います。

任意後見制度との違い

家族信託、任意後見制度共に、本人に判断能力があるうちに、契約を行います。家族信託と任意後見制度の最大の違いは身上保護の有無ですが、それ以外にも以下の違いがあります。

  • 開始時期
    任意後見制度の場合、認知症など判断能力が衰えた後に後見が開始しますが、家族信託は、契約と同時に開始します。
  • 開始方法
    任意後見は、本人の判断能力が衰えた場合、本人や親族が家庭裁判所に申し立てをする必要がありますが、家族信託はその必要がありません。

家族信託と銀行などの家族信託系サービスはどう違う?

銀行をはじめとする金融機関が扱う家族信託系サービスは、金融機関という特性から、現金のみが信託財産の対象です。現金の預け入れから一定の条件になると払い戻しができる仕組みです。

家族信託は、一部の例外を除き財産的な価値があるものなら全て信託財産の対象となります。家族信託系サービスと大きく異なるポイントです。

遺言で管理するのではダメなの?

財産の管理方法として「遺言」を思い浮かべる方が多いかもしれません。

「別に遺言を書いているから大丈夫なんじゃないの?」と考える方もいらっしゃるでしょう。確かに遺言を書いておけば、自分が亡くなった後に財産が渡る先をあらかじめ指定することはできます。

しかし、認知症になってしまった場合はどうでしょうか。 遺言では、生前に自分自身で財産を管理することが難しくなった時のリスクまで対応することができません。その点、家族信託は契約締結と同時に効力が発生するため、生きているうちから、柔軟な財産管理をすることが可能となります。

このように家族信託は、事前に本人の意思や希望を尊重した契約を設計しておくことで、本人が元気なうちから「大切な家族の財産を、家族で守る」ことを実現します。仮に認知症を発症してしまったとしても、資産が凍結されることがなくなる仕組みなのです。

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近年「家族信託」が改めて注目されるようになった背景とは?

近年「家族信託」が改めて注目されるようになった背景

では、なぜここ数年において、家族信託が注目されるようになってきたのでしょうか。 その背景には、以下のような問題があると考えられます。

1.平均寿命と健康寿命の差に潜むリスク

平均寿命とは、0歳時点で何歳まで生きられるかを統計から予測した「平均余命」のことです。一方で、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指します。

世界保健機関(WHO)が発表した「世界保健統計 2022」によると、私たち日本人の平均寿命と健康寿命の差は、約10歳もあるとされています。

これはつまり、日本人には、病気やケガなどが原因で自力で日常生活を送ることが困難になり、介護が必要な状態が平均して約10年もあるということです。

現在、平均寿命と健康寿命の差をいかにして短くできるかが注目されています。それと同時に、この期間に、できる限りトラブルを減らす取り組みも重要とされています。

2.超高齢社会の現状

うちの両親はまだまだ元気だし、認知症になりそうもない。」そう思われる方もいらっしゃるでしょう。将来起こりうる問題やリスクを、私たちは先送りにしがちです。両親や配偶者、身近な人が認知症になった時のことを考えたくないと感じるのは、当然のことでしょう。

しかし、現実には認知症は思ったよりもずっと身近な病気です。

厚生労働省の発表によると、日本の65歳以上の高齢者における認知症患者数は、2012年時点で約462万人、7人に1人という割合でした。

認知症患者数は年々増加傾向にあり、2025年には認知症患者数は約730万人、つまり、5人に1人が認知症になると推計されています。認知症は決して他人事ではないのです。

「人生100年時代」と呼ばれている今、認知症に対する理解を深め、将来起こりうるリスクに対して、どのように対処すべきかを考えることが大切です。

資料: 2010年までは総務省「国勢調査」、2015年は総務省「人口推計(平成27年国勢調査人工速報集計による人口を基準とした平成27年10月1日現在確定値)」、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果
(注)1950年~2010年の総数は年齢不詳を含む。高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。

認知症による資産凍結ってどんなことが起こるの?親の生活費は大丈夫!?

認知症等により意思能力が低下すると、金融機関で預金の引き出しができなくなり、これを一般的に資産凍結といいます。

資産凍結の目的は、意思能力が低下した人の財産を保護することです。認知症になると判断能力が低下し、詐欺に遭いやすくなったり、不利な取引をしたりする可能性があります。そのリスクを減らすために資産を凍結するのです。

資産凍結により起こる主なデメリットは以下の4つです。

  • 本人や家族でも預金の引き出しができなくなる
  • 定期預金の解約ができなくなる
  • 口座の変更ができなくなる
  • 代理人カードが使えなくなる

資産を凍結されると年金などの生活費や入院・介護施設への入所など、お金が必要なときに、家族などが立て替える必要があります。これは家族にとっては大きな負担でしょう。

認知症発症後に、資産凍結を解除するには法定後見制度を利用するしかありません。しかし、法定後見制度には、本人が亡くなるまでやめられない、利用まで時間がかかる、後見人に報酬が発生するなどのデメリットが発生します。

家族信託の5つのメリット

家族信託の5つのメリット

では実際に家族信託を利用するとどのようなメリットがあるのでしょうか?

家族信託を利用するメリットは、主に下記の5つが挙げられます。

家族信託を利用するメリット
  • 認知症などになっても財産管理を継続できる
  • 遺言と同様に思い通りの資産承継を実現できる
  • 成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる
  • 相続に共有名義となることに起因するトラブルを回避できる
  • 相続時の遺族の負担を軽減できる

ここでは主なメリットについて解説します。

認知症などになっても財産管理を継続できる

財産の所有者である委託者の意思能力に左右されることなく、家族間で財産管理を継続できるという点は、家族信託の最大のメリットです。

通常、認知症や病気などにより意思能力を喪失した場合、何も対策していないと預貯金の入出金や不動産の売買契約といった、財産に関する法律行為ができなくなり「資産凍結」と呼ばれる状態になってしまう可能性があります。

しかし、家族信託で自分の資産管理を家族に託しておけば、その後本人の意思能力が低下・喪失したとしても、その効力が否定されることはありません。

あらかじめ家族信託を締結しておくことで、元気なうちから信頼できる家族の手により財産管理を行うことができる点は、家族信託の利点だといえるでしょう。

遺言と同様に思い通りの資産承継を実現できる

家族信託には遺言代用機能があるため、思い通りの資産承継を実現することが可能です。

遺言代用機能とは、自分の死後に資産を承継する先を信託契約の中で自由に指定できる機能です。「誰に、どのように承継させるか」をあらかじめ定めることができるため、遺言と同様の効果を得ることができます。

また、この機能を用いれば、遺言単独では対策することのできない二次相続以降の承継先についても、何世代にもわたって指定することができるのです

相続トラブルを回避し、遺族の負担を軽減する手段としても活用することができる点は、家族信託の魅力の1つです。

※ 後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます

成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる

成年後見制度では、後見人は財産の維持・管理しか認められておらず、例え本人のためであっても財産の運用や相続税対策はできません。

例えば、介護施設への入居費用を捻出するために、本人名義の居住用住宅を売却しようとしても、成年後見の場合は、家庭裁判所の許可が必要になり時間もかかります。

一方、家族信託では、信託目的の範囲内なら投資や資産運用など、より柔軟で積極的な資産管理が可能で、受託者が単独で本人名義の居住用住宅の売却を行えます。

相続により共有名義となることに起因するトラブルを回避できる

不動産を共有名義にすることには、多くのリスクが伴います。

例えば、不動産を売却する際には、共有名義人全員の同意が必要です。従って、売却に反対する名義人が1人でもいる場合や認知症で意思能力がない名義人がいる場合、売却は不可能となります。

家族信託では、不動産の名義は受託者に移転され、受益者は受益権を取得します。受託者は管理・運用・処分は受託者の権限で行うことができます。

不動産の塩漬けを回避するために、家族信託の利用が有効です。

相続時の遺族の負担を軽減できる

家族信託では、遺産の承継者を決めておくこともできます。そのため、当該遺産については遺産分割協議が不要となり、相続時の遺族の負担を軽減できます。

遺産の承継先を決めないままに亡くなると、最悪の場合には相続人の間での争いに発展する可能性もあるでしょう。家族信託や遺言によって遺産の承継先を決めておくことは、遺産争いを防止し、遺族の負担を軽減するために重要なことです。

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家族信託の14の注意点

家族信託の14の注意点

前項で紹介したように、家族信託は非常に柔軟性が高く、利用するメリットも多い制度です。しかし、家族信託で全てが解決するというわけではありません。

利用を検討するうえで、事前に知っておくべき注意点がいくつかあるのも事実です。

ここからは、次の14個の注意点について解説します。検討する際は専門家とよくご相談ください。

家族信託の注意点
  • 意思能力を喪失した後では利用できない
  • 損益通算ができない
  • 節税対策にはならない
  • 成年後見制度でしかできないこともある
  • 税務申告の手間がかかる
  • 長期にわたって受託者が拘束される
  • 相談できる専門家が少ない
  • 遺留分侵害額請求の対象となる場合がある
  • 受託者の選定でもめる可能性がある
  • 親族の理解を得られない可能性がある
  • 信託した財産に相続税がかかる
  • 両親や祖父母に契約の同意を得にくい
  • 田畑などの不動産は信託できない
  • 専門家に相談する費用がかかる

それぞれについて見ていきましょう。

意思能力を喪失した後では利用できない

家族信託は契約の一種です。従って、家族信託契約を締結するためには意思能力が必要になります。もし、認知症発症により意思能力を欠く状態で家族信託契約を締結した場合、その契約は無効になってしまいます。

家族信託を利用しようと考えるのなら、なるべく早めに家族信託に詳しい弁護士や司法書士などの専門家に相談をしましょう。

しかし、認知症に罹患したからといって、全ての人が家族信託を利用できないわけではありません。認知症の程度が軽度であり、意思能力があると認められれば、家族信託の利用が可能です。

認知症発症後に家族信託を利用したい場合、やはり家族信託に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

損益通算ができない

所得税の申告にあたり、赤字の所得を他の所得から差し引くことで課税される所得を減らすことを 「損益通算」といいますが、家族信託では損益通算を行うことができません。

信託財産に収益不動産が含まれている場合に、信託財産から生じる不動産所得にかかる損失は、なかったものとみなされます。信託された不動産所得の損失は、信託されていない収益不動産の黒字から差し引くことができないのです。(租税特別措置法第 41 条 4 項の 2)

そのため、大規模な修繕を行う予定のある不動産を信託しようと考えているような場合は、注意しなければなりません。

収益不動産を信託すると、通常よりも多くの所得税を支払うことになる可能性があります。家族信託を組成する際は、必要に応じて税理士に相談するなどして、何を信託すべきか慎重に判断するようにしましょう。

節税対策にはならない

家族信託を利用しても直接的な節税効果は期待できません。

家族信託は認知症対策や、将来の財産の承継先を自由に設計できる制度としてメリットがあります。しかし、家族信託を組成したからといって、本来払うべき税金が減るわけではないからです。

どのように家族信託を設定するのかによって、課税される税金の種類もかわってくるため、家族信託の形と税金との関係をしっかりと把握しておくようにしましょう。

成年後見制度でしかできないこともある

成年後見制度にあって、家族信託にない機能に「身上保護」があります。身上保護とは、認知症等により意思能力が低下した人に代わって、生活・医療・介護などの事務手続きを行うことです。

具体的には、本人の住まいの確保、生活環境の整備、介護施設への入所手続き、医療や入院の手続きなどを、本人に代わって行います。

しかし、食事やトイレ、入浴の世話などは、事実行為といって成年後見制度を利用しても、行うことはできません。

家族信託は意思能力喪失後の財産管理に有効な制度です。しかし、家族信託の範囲は財産管理に限定されているため、身上保護の機能がありません。

身上保護まで求めるのなら、家族信託の設定と同時に任意後見制度の併用も視野に入れましょう。

税務申告の手間がかかる

家族信託を利用し信託財産から年間3万円以上の収入がある場合、受託者は翌年の1月31日までに税務署に対して信託計算書や信託計算書合計表を提出する必要があります。

また、信託財産に不動産所得がある場合、毎年の確定申告において不動産所得用の明細書の他、信託財産に関する明細書を別途作成して添付しなければなりません。

手間と感じられるかどうかについては個人差が生じる部分ではありますが、こうした税務申告を自分自身で行うことに不安がある方は、税理士などに前もって相談してくおくことが大切です。

長期にわたって受託者が拘束される

家族信託のメリットの1つに、財産を何代にも渡って承継させることができる点を挙げました。しかし裏を返せば、長期間にわたり契約が続くことはデメリットにもなりえます。

信託契約が開始すると、受託者は契約内容に従って財産管理を行う必要があります。仮に二代先、三代先と承継先を指定した場合、契約期間中は何十年もの間、受託者は信託契約に拘束されることになるからです。

さらに受託者は、契約の期間中は毎年一度、信託契約に係る帳簿をはじめとする書類を作成し、その内容を受益者に対して報告する義務も発生します。

長期にわたり継続する信託は、思いがけないトラブルが発生するリスクがあるうえに、上記のように契約に該当するご家族の負担となる可能性もあります。家族信託を検討する際は、この点を考慮したうえで家族と話し合い、設計するとよいでしょう。

相談できる専門家が少ない

家族信託は歴史の浅い制度で、取扱い実績が豊富な専門家が少ないのが現状です。

家族信託は契約を締結すれば終了ということではなく、契約後の運用過程でも専門家の助言が必要な場面があります。

信託契約時のサポートだけでなく、契約後のサポートにも対応した専門家が少なく、見つけるのが難しいのは家族信託のデメリットの1つです。

遺留分侵害額請求の対象となる場合がある

相続時に法定相続人に最低限保障された相続財産のことを 「遺留分」といいます。もし、遺留分を侵害するような内容で家族信託契約を結んでしまうと、遺留分侵害請求をされる場合があります。

平成30年(2018年)9月12日に東京地方裁判所では、遺留分の潜脱を目的とした家族信託契約を、公序良俗に違反するため無効とした事例もありました。

遺留分の侵害は相続トラブルに発展するケースが非常に多いため、信託契約書作成の時点で遺留分に配慮した設計にしておくとよいでしょう。

その他、信託で財産を承継させる予定のない相続人には、別途、遺言や生命保険により財産を承継できるようにしておくなどの対策を講じることも有用です。

受託者の選定でもめる可能性がある

家族信託では、親族の中から信頼できる人を受託者に選任します。受託者に選任されることで経済的利益を得られるわけではありませんが、受託者に選ばれなかった親族が不満を持つ可能性はあります。

受託者を選定する際には、親族間の話し合いをするなど、受託者に選任されなかった親族の理解も得ておくことが重要です。

親族の理解を得られない可能性がある

受託者が行う財産管理は、他の親族にとって目に見えない部分があります。そのため、財産の使い込みなどを疑われ、親族の理解を得られない可能性もあるでしょう。

受託者の選定だけでなく、その後の財産管理についても不満を与えないよう、親族間でしっかり話し合いをしておくことが重要です。

信託した財産に相続税がかかる

信託した財産についても、相続時には相続税がかかります。家族信託では、財産の名義が受託者に移転しても、財産権は委託者の元に残ります。そのため、相続によって財産権が相続人に承継された時点で相続税が発生するのは当然のことです。

家族信託の信託財産についても、相続税の準備をしておく必要があります。

両親や祖父母に契約の同意を得にくい

本人ではなく、受託者発信で家族信託の手続きを進める場合、両親や祖父母に契約の同意を得るのが難しいケースもあります。

家族信託の制度は馴染みがないため、両親や祖父母が制度の内容を理解できなかったり、財産の名義が受託者に変更されることに抵抗を感じたりして、同意が得られない可能性もあります。

専門家に相談する費用がかかる

家族信託を組成する際に発生する費用は、決して安いとはいえません。

コンサルティング費用から、契約書の作成費用、公正証書化するうえでかかる費用、登録免許税など、各手続きにおいて費用が発生します。

特にコンサルティング費用の相場は、信託する財産の内容や相談先によりさまざまですが、場合によっては100万円を超えることもあります。

一見、費用が高いと感じる人もいるかもしれませんが、家族信託を組成することによって得られる効果を考えると、利用する価値は十分にあるといえるでしょう。

家族信託で後悔するケース

悩み

家族信託は、判断能力低下後の財産管理に有効な制度ですが、家族信託を設定するには高度な法律の知識が必要です。法律の知識が乏しい一般の方が家族信託を設定すると、さまざまなトラブルを引き起こし後悔するケースがあります。

以下で、家族信託で後悔する主なケースを5つご紹介します。

信託できない財産があることを知らなかった

家族信託においては、金銭的に見積もれるものならほとんどの財産を信託することができます。
しかし、例外を知らずに信託財産に含めてしまうと、後々トラブルになる可能性があります。

以下は、主な3つの例外です。

  1. 一身専属権
    年金受給権や生活保護受給権は、本人のみが行使することができる権利です。よって、これを信託することはできません。
  2. 上場株式
    上場株式を信託財産に含めることは可能ですが、家族信託制度に対応できない証券会社が多く、事実上、信託財産に含めることは困難です。
  3. 農地
    農地も、事実上、信託財産に含めることが困難です。農地は農地法で規制されており、地目を変更せずに農地を信託財産に含めるには、農地法第3条の許可を得なければなりません。信託を目的とした許可を得るのは難しく、実質的に、信託は不可能となります。

一定期間経過したことで信託が無効になってしまった

家族信託の終了事由の1つに「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき」というものがあります。これは、受託者が受益者と同一人になってしまった状態のことです。

受益者には、受託者を監督する役割がありますが、受託者と受益者が同一人では、これが機能するかどうか疑問です。

そこで、信託は、受託者と受益者が同一人になった場合にその期間が1年間継続したら、強制的に終了することになっています。

そのことを知らずに、受託者=受益者の状態を1年以上放置した場合、家族信託が終了してしまうのです。

法的知識がなくトラブルに発展してしまった

近年はネットなどで契約書の書き方やひな型などが簡単に入手できるため、法律の知識が乏しい方でも、形式上信託契約書を作成することができます。

しかし、信託に関して十分な法律知識がない状態で契約書や添付書類などを作成してしまうと、法律的に不備がある不完全な書類になり、信託契約が無効になるケースもあります。

信託契約が無効になると法律上あるいは税務上のトラブルに発展する場合もあるので、専門家に相談することをおすすめします。

手続きが遅れているうちに親の認知症が進行してしまった

認知症を発症しても、軽度であり意思能力が備わっているうちなら、信託契約を締結することが可能な場合もあります。

しかし、手続きが遅れているうちに親の認知症が進行し、意思能力を喪失した場合、信託契約を締結することは不可能になってしまいます。

認知症発症後に家族信託を利用する場合、早めに専門家に相談し、速やかに信託契約を締結することをおすすめします。

不動産ローンの一括返済を求められた

住宅ローンが残っていて抵当権の付いている不動産も、法律上は信託財産に含めることができます。

しかし、ローンを借りている金融機関の承諾を得ずに信託財産にしてしまうと、金融機関からローンの一括返済を求められることがあります。

ほとんどのローン契約には、「債権者である金融機関に無断で第三者にローンの対象となる自宅の所有権を移転させた場合、残債務の一括返済をする」という条項が入っています。

家族信託では、自宅を信託財産にした場合、自宅の所有権が受託者に移転されるため、この条項に抵触し、残債務の一括返済を求められるのです。

重要な役割を果たす、信託監督人の存在

重要な役割を果たす、信託監督人の存在

家族信託では、「信託監督人」という役割を信託契約書上であらかじめ指定することができます。信託監督人は、信託が受益者のために適切に運営されているかを監督する役目を持っています。

信託監督人の設置は任意ではあるものの、客観的な立場から信託をチェックしてくれる親族以外の人物を信託監督人に指定することで、より信託の透明性・公平性を高めることができます。

※公平性を高める他の手段として、受託者を複数人にしたり、「受益者代理人」を設定するなどの方法もあります。

いずれにしても、「委託者」「受託者」「受益者」それぞれの役割や責任を理解したうえで、信頼できる人を選ぶことが非常に大切です。

事前に家族会議を開き、どのように財産管理を行っていくか、きちんと話し合うようにしましょう。

信託監督人が必要な理由

家族信託における受託者は、不動産や預金口座など大切な財産の管理を任せられます。信頼できる親族を受託者に選任したとしても、不動産を勝手に売却したり、預金を着服したりする危険性もあります。

そのため、受託者が適切な財産管理を行っているのかをチェックするための信託監督人が必要になるのです。

信託監督人の役割とは?

信託監督人の役割は、受託者が財産管理を適切に行っているかを監督することです。信託監督の具体的な役割は、個々の信託契約で自由に決められます。

考えられる役割としては、受託者が管理する口座の動きや、財産の収支状況を定期的にチェックすることが挙げられます。

信託監督人の選任方法は?

信託監督人は、信託契約の内容として自由に指定できます。指定を受けた人が就任の承諾をすることで、正式に信託監督人となります。

信託監督人の選任については、家庭裁判所に選任の申立てを行うことも可能です。受託者に選ばれなかった親族などは、利害関係人として信託監督人選任の申立てを行えます。

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家族信託の手続きの流れを解説

家族信託の手続きの流れを解説

家族信託の手続きは、次の流れで行います。

  • 信託契約書の作成と締結
  • 信託契約書を公正証書にする
  • 信託財産の名義変更を行う
  • 信託口口座の解説

以下で、それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。

①信託契約書の作成と締結

家族信託は、口頭の契約でも成立しますが、契約内容を明らかにするため、財産の名義変更を行うためには信託契約書の作成は必須です。

信託契約書に盛り込むべき主要な内容は、次のとおりです。

  • 信託の目的
  • 信託財産
  • 受託者、委託者、受益者
  • 信託期間
  • 信託財産の管理処分権
  • 契約締結日
  • その他

信託契約書の内容は、個々の家族によって大きく変わってきます。有効で適切な契約書を作成するには専門家のサポートは欠かせません。

②信託契約書を公正証書にする

信託契約書の内容は、公正証書にしておきましょう。公正証書は、近くの公証人役場で作成できます。信託財産の額に応じた手数料が必要となるので、役場で確認するようにしてください。

公正証書の作成は必須ではなく、費用もかかります。しかし、信託口口座の開設にはほとんどの銀行が公正証書の提示を条件としているため、公正証書は必ず作成してください。

③信託財産の名義変更を行う

不動産を信託財産とした場合は、登記による名義変更手続きが必要です。

登記の方法としては、所有権移転登記手続きを行い、受託者は、受託者の肩書付きで登記簿の所有者欄に記載されることになります。登記手続きには、登記原因証明情報として②で作成した信託契約の公正証書などが必要です。

信託財産の登記手続きについては、登記の専門家である司法書士に手続きを依頼することをおすすめします。

④信託口口座の開設

家族信託の受託者は、信託財産を専用の預金口座で管理しなくてはなりません。信託財産を管理する専用口座のことを信託口口座といいます。

信託口口座は、対応している銀行と対応していない銀行があるので、信託口口座の開設に対応した銀行で開設手続きを行いましょう。この際、②で作成した信託契約の公正証書の提示が求められます。

信託口口座は、不正利用防止のため、キャッシュカードでの入出金には対応していないものが多いです。

家族信託の活用例を紹介

家族信託の活用例

ここでは、家族信託の具体的な活用例を4つ紹介します。家族信託の利用を検討するのに参考にしてください。

両親の認知症に備えて活用

両親の認知症に備えるのは、家族信託の代表的な活用例です。家族信託では、本人の判断能力がはっきりしているうちに、認知症となった場合の対応を決めておくことができます。

たとえば、自分が認知症になったときには、財産を処分して施設に入所したいとの希望があるケースでは、家族信託で受託者を指定しておくことで、いざ認知症になってしまった場合の財産の処分を任せられます。

親の死後、障がいのある子の生活を支えるために活用

家族信託では、自分の死後における財産管理の方法も指定できます。たとえば、障がいのある子がいるケースでは、他の親族を受託者、自分を受益者とする家族信託契約を締結して、自分の死後には受益者を障がいのある子に移転させることも可能です。

この方法では、信託財産からの定期収入がある場合、親の死後に障がいのある子が定期収入を受け取ることができるため、生活を支えられます。

子どもに生前贈与した後も実質的な管理権限を残すために活用

子どもに不動産や預金を生前贈与する場合でも、子どもが勝手に不動産を売却したりしないように、実質的な管理権限は自分に残しておきたいケースもあるでしょう。

この場合、生前贈与ではなく家族信託とすることで、所有権は子どもに移転させながらも、実質的な管理権限は委託者に残るため、意図しない財産の散逸を防止できます。

孫世代までの相続を指定したい

遺言では、相続財産の承継先の指定は可能ですが、その相続人が亡くなった場合の承継先までは指定できません。

しかし、家族信託を使えば、第一受益者を父、第二受益者を母、第三受益者を長男、第四受益者を長男の長男(孫)と数次にわたり信託財産の承継先を指定できます。

これにより、本人の希望に沿った相続が実現可能です。例えば、代々直系にのみ財産を相続させたい場合などに、有効といえます。

さらに、この機能を事業承継に使えば、家族経営の会社の株式を代々長男に相続させることも可能です。相続の際に株式の配分を巡って争いになり、会社の経営の停滞を招くといった事態を回避することができます。

ペットに安心して余生を過ごさせるために活用

自分が亡くなった後のペットの生活を心配される方は少なくないでしょう。家族信託を活用すれば、自分が亡くなった後のペットの世話をお願いできます。

この場合、飼い主を委託者かつ受益者、ペットの飼育費とペットを信託財産、死後にペットのお世話をする人を二次受益者とする家族信託を締結します。そうすると、飼い主が亡くなった後は、二次受益者が引き続きペットの世話を行うことができ、ペットの飼育費が相続財産となることもありません。

家族信託の検討をおすすめするケース

介助士

家族信託の検討をおすすめするのは下記のようなケースです。

  • 自身や家族の判断能力の低下に備えたい場合
  • 遺言以外の承継方法を探している場合
  • 二次相続以降の相続を考えている場合
  • 相続に関する家族・親族間のトラブルを防ぎたい場合

それぞれのケースについて見ていきましょう。

自身や家族の判断能力の低下に備えたい場合

自身や家族の判断能力の低下に備えたいのなら家族信託の検討はおすすめです。
家族信託であれば、判断能力が十分なうちに信託契約を締結することで自身や家族の判断能力が低下しても財産の管理・運用・処分ができるためです。

何も対策しないうちに認知症などにより自身や家族の判断能力が低下した場合、銀行口座は凍結されてしまいます。家族であっても、遺産分割協議が整うまでは預金を引き出すことはできなくなります。

一方で、自身だけでなく家族の判断能力が低下した場合にも家族信託は有益です。家族信託は家族だけで財産の管理を行える制度です。

遺言以外の承継方法を探している場合

家族に財産を残すために遺言が多く用いられています。遺言は、遺言者が亡くなった後に「誰にどの財産をどれだけ残すのか」という財産の承継先を決められます。

ただし遺言の効力が発生するのは、遺言者本人が死亡したときです。本人が死亡するまでの間には効力がありません。

本人の存命中に財産の承継先を決めるものに家族信託があります。
家族信託であれば信託手続きの完了時に効力が発生するので、本人の存命中でも家族に財産の管理を任せることができます。

また、遺言と家族信託は併用することも可能です。家族信託で信託された財産は受託者名義の財産となり、遺言の対象外の財産です。遺言により、信託されていない財産の承継先を決めることもできます。農地などの信託できない財産もあるためです。

二次相続以降の相続を考えている場合

遺言では、遺言者が亡くなった後に妻や子どもへの一次相続として、財産の承継先を決めることができます。ただし、その先の孫などへの二次相続の指定はできません。

家族信託では二次相続の指定も可能なため、孫などへ財産の承継を考えている方には向いています。この点では家族信託の方が使い勝手が良いといえるでしょう。

二次相続で注意すべき点として、一次相続に比較すると相続税が高くなる可能性があることです。二次相続では、配偶者控除が使えず基礎控除も減るためです。二次相続の際に子どもが多くの相続税を負担することになるか、税理士に相談する方が良いでしょう。

相続に関する家族・親族間のトラブルを防ぎたい場合

相続ではお金がからむため、家族や親族であってもトラブルに発展するケースもあります。家族・親族間のトラブル防止のためには、生前にしっかりと準備しておくことが大切です。

相続トラブル防止の準備として主に以下の方法が挙げられます。

  • 家族間での話し合い
  • 遺言書の作成
  • 家族信託の利用

この中でも家族信託の利用は、存命中から死後にかけての財産の運用・管理方法までを一貫して事前に決めておけるため、親が相続でのトラブルを防止する方法として有効です。

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家族信託にかかる費用の相場は?

家族信託にかかる費用の相場は?

家族信託には費用がかかります。ここでは、自分で手続きする場合と専門家に依頼する場合に分けて、家族信託にかかる費用の相場を解説します。

自分で手続きする場合

家族信託は、自分で手続きをする場合でも、以下のような実費が発生します。

  • 公正証書作成手数料
  • 登録免許税
  • 信託口口座開設費用
  • 各種書類の発行手数料

公正証書作成手数料や登録免許税は、信託財産の額によって変わります。公正証書作成手数料は信託財産の総額が3,000万円以下の場合で2万3,000円。登録免許税は、建物については固定資産税評価額の0.4%、土地については固定資産税評価額の0.3%です。

全ての費用を合計すると、最低でも10万円程度はかかるでしょう。

専門家に依頼する場合

家族信託の手続きを弁護士や司法書士などの専門家に依頼した場合にかかる費用の相場は、50~100万円ほどです。

専門家に依頼する費用の内訳は、実費と専門家への報酬に分かれます。実費については、自分で手続きする場合と同様の費用がかかります。専門家に依頼する場合には、専門家へ支払う報酬分が追加されます。

報酬の額は、どの専門家に依頼するのか、どの範囲の業務を依頼するのかで大きく異なります。専門家に依頼する場合には、全ての手続きを丸投げするのではなく、必要な範囲をしっかり検討しておくことが重要です。

毎年かかる費用として「信託報酬」や「信託監督人の報酬」が発生することも

家族信託では、受託者や信託監督人は、信託事務の対価としての報酬を受け取ることができます。

しかし、受託者などが報酬を受け取るには、信託報酬について信託契約の中で定めなければなりません。受託者や信託監督人が子や親族の場合、無報酬であることも珍しくありません。

受託者などが推定相続人である場合、信託報酬は生前贈与として機能すると同時に、無報酬の場合より、信託事務に責任感が増す効果もあります。

信託報酬の相場は、月2〜5万程度で、弁護士や司法書士等の専門家に依頼する場合は、親族に頼む場合より高めになります。

家族信託を失敗せずに活用する方法

専門家

家族信託の活用で失敗しない方法は、大きく分けて3つあります。以下で詳しく解説します。

家族・親族間で事前に話し合ってイメージを共有しておく

家族間で財産の利用方法や、将来の承継者について話し合いを行いましょう。重要なポイントは、共通のイメージを持つことです。家族信託を利用する場合だけでなく、遺言や遺産分割協議においても同じです。

家族信託を利用する場合、契約に関係するのは委託者兼受益者と、受託者になります。家族全員の了承を得て契約内容を実施する必要があります。

話し合うべき内容①「何を」信託するか

受託者が保有している財産のうち「何を」信託財産として託すのかを、家族・親族間で話し合う必要があります。保有財産の全てでも一部でも決まりはありません。

ただし、信託が事実上難しい財産があるので注意しなければなりません。信託が事実上難しい財産の代表的なものとして、田や畑などの農地や預貯金口座があります。信託契約の中に記載しても効力が生じません。

農地は農地法により手厚く保護されており、農地転用にあたっては農業委員会の許可が必要なため信託財産にするのはほぼ困難といえます。預貯金口座についても、預金者と金融機関の間で譲渡禁止特約があるため名義変更をするのは難しいでしょう。

なお、預貯金口座そのものは信託の対象とすることはできませんが、現金は対象にできます。預貯金口座の中の預金を信託の対象としたい場合、委託者が預貯金口座からいったん預金を引き出し、現金を信託の対象とします。

信託財産を何にするのかは長期にわたる場合が多いため、十分に話し合っておく必要があります。

話し合うべき内容②「誰に」信託するか

家族信託では「誰に」信託するか、受託者は信頼できる方であることが第一条件です。委託者に寄り添って、委託者はどのような財産管理を望んでいるのか、将来どのような介護を望んでいるのかなど、理解できる方でなければなりません。

家族信託において受託者の果たす役割は大きく、一定程度の財産管理に対する実務の知識が必要です。

また、受託者は家族・親族との調整ができて、コミュニケーションを取れる方が望ましいでしょう。受託者には大きな権限があるため、説明不足だと勝手に委託者の財産を運用していると思われかねません。

受託者には、家族信託の成否を左右するほどの大きな役割があるといってもよいでしょう。

話し合うべき内容③「なぜ」信託するか

「なぜ」信託するのかという信託理由・目的を明確にしておかないと、せっかく家族信託契約を締結しても望んだ結果にならない可能性が高くなります。

信託する理由があってこそ、受託者もそれに沿って信託財産の運用・管理・処分を行うことができます。
信託の理由や望む結果を明らかにしておくと、家族信託を有効に活用できる可能性が高くなるでしょう。

自分で考えても理由が明確でなければ、信頼できる家族と話し合いをした上で専門家に相談した方が良いでしょう。

信頼できる専門家に相談する

信頼できる専門家に相談することで、メリット や デメリットを正しく把握できます。

家族信託は相続とは異なり、先を見据えた資産承継をしなければなりません。専門家の力を借りることで理想的な家族信託を実現できます。

家族信託が成功したかどうか、結果が出るのは何十年も先です。専門家の活用で慎重に行うことが大切です。

他の制度との併用を検討する

家族信託は、単体でも利用できますが、任意後見制度などを併用すべきか検討することも大切です。認知症により判断能力が低下してしまうと、契約などの法律行為ができなくなり資産が凍結される恐れがあります。

資産凍結問題に備えるには、任意後見制度と家族信託の併用が最適です。これにより財産管理と身上保護の両方ができるメリットがあります。

家族信託を相談できる専門家の種類は?どこに頼む?

相談

家族信託を組成するには高度な専門知識が必要になります。家族信託の利用を考えたとき、専門家に相談すべきでしょう。

専門家といっても、それぞれ持っている強みが違うので、各専門家の強みを考慮して相談しましょう。

司法書士

司法書士は、登記手続きに関する専門家です。相続や任意後見制度といった業務を主業務としている事務所も多く、他士業より家族信託にも力を入れている方が多いです。

信託財産には不動産が含まれていることが多く、不動産に関する相談や、信託登記まで任せられるのが強みです。

また、相続が発生した場合、遺産分割協議書作成や、遺産に不動産が含まれていれば、所有権移転登記まで任せられるので安心です。

司法書士は、原則として訴訟代理人になれないため、トラブルが起きないような予防法務を得意としています。

弁護士

弁護士は、訴訟を含む法律の専門家です。司法書士同様、信託組成や契約書の作成を依頼できますが、登記業務を行なっている弁護士事務所は少なく、登記業務は司法書士に依頼しているところがほとんどです。

家族信託の組成には、高度な法律知識が必要です。一般の方が組成をすると、様々なトラブルが発生する可能性があります。
弁護士ならその専門知識を駆使し、将来発生しうるトラブルを未然に防ぐことができます。
また、万が一、トラブルが起こっても、訴訟まで含めて相談できるので安心です。

ただし、他士業よりも報酬が高額な傾向にあります。

家族信託コーディネーター

家族信託コーディネーターとは、一般社団法人家族信託普及協会の実務研修を受けた、専門的な知識のある専門家です。

相談者と家族の希望や要望、現在の状況を整理するお手伝いをします。利用したい家族の意向を、弁護士や司法書士など専門家との間に入って、家族信託契約の手続きが進むよう調整します。相談者と専門家の橋渡し役となる存在です。

家族信託専門士

家族信託専門士は、税務・不動産・FPなどの専門分野に携わっている方と連携して、家族信託コーディネーターから家族信託の組成についても依頼を受ける専門家です。

家族信託専門士の主な専門分野には以下のものがあります。

  • 相談者と間に入る各種専門家などとの連携業務
  • 適切な家族信託の組成に対する判断や立案業務
  • 家族信託の組成の見積書作成業務
  • 家族信託契約書の作成の支援業務
  • 公正証書の作成に関する支援業務
  • 信託登記の実務
  • 家族信託組成後にわたるフォロー

家族信託専門士は上記の幅広い分野に関する知見を有し、一般社団法人家族信託普及協会の家族信託専門士研修を受講しています。

税理士

税理士は税に関する専門家です。家族信託について税理士に相談するケースは、委託者が会社経営者であることが多いようです。

いわゆるオーナー社長の場合、事業承継やそれに伴う株式譲渡など、高度に専門的な税務の知識が必要となります。

また、家族信託を開始した場合、誰にどれだけの税金が発生するのか相談することができます。これは、他士業にはない強みといえます。

税理士に家族信託を相談するデメリットとしては、税理士は税法以外の専門家ではないので、家族信託をどこまで詳しく知っているのかわからないことです。

不動産会社

収益物件のオーナーや資産家が高齢で、認知症などになった場合、不動産の管理に支障をきたすことになります。

アパートやマンションの建て替えや売却も出来ず、不動産運営が立ちいかなくなるケースもあります。そのような事態を回避するため、家族信託を利用し、不動産の管理から売却まで不動産会社に相談することが有効です。

不動産会社は、相続発生までの期間の不動産管理や不動産の建て替えや売却などに関して、不動産の専門家の立場から、適切な計画の発案やアドバイスをくれます。

ただし、不動産会社は法律の専門家ではないので、信託契約に関しては、弁護士など法律の専門家にリーガルチェックを受けることをおすすめします。

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家族信託に関するよくある質問

タイピング

家族信託に関するよくある質問に答えていきます。

家族信託が危険と言われる理由は?

家族信託が危険といわれることがありますが、それは以下の4つが理由です。

  • 受託者に権限が集中する
    家族信託では、受託者に信託財産の管理・処分・運用の権限が与えられます。
    上記のように、受託者の職務怠慢によって受益者を害する可能性があります。
  • 身上保護機能がない
    家族信託は、財産管理に特化しているので、身上保護機能がありません。
    身上保護もを考えるのなら、信託を設定するとき同時に、任意後見制度も利用しましょう。
  • 初期費用が高額
    専門家に依頼すると、相場が50~100万円程度と高額になります。
  • 親族の仲が悪化
    一部の家族だけで信託を進めてしまうと、その他の親族に受託者が財産を勝手に使ってしまうのではないかと疑われるケースがあります。

家族信託は相続税や贈与税の軽減を期待できますか?

家族信託において、税金は受益者に課されるのが原則なので、節税効果はほぼありません。

例えば、父を委託者=受益者、長男を受託者、母を第二受益者として家族信託を組成した場合を考えます。

委託者=受益者である父から、生前に信託財産を母に譲渡する場合、みなし贈与として贈与税がかかり、父の死亡により第二受益者に設定されていた母が受益権を取得すれば、相続税がかかります。

このように、家族信託自体に節税効果はありません。

家族信託と成年後見の費用はどちらが安くなりますか?

家族信託は、初期費用として30~80万円ほどかかりますが、原則として、家族や親類が受託者となり、ランニングコストがかかりません。

一方、成年後見は、初期費用として10~30万円ほどかかりますが、家族以外の弁護士や司法書士などの専門家が後見人に就任する場合、月2~7万円のランニングコストがかかります。後見の期間が長くなればなるほど、費用がかかるということです。

結果として、成年後見の方が費用がかかる場合が多く、家族信託の方が費用が安くなるといえます。

家族信託以外の認知症に備えた制度はある?

家族信託以外で認知症に備えるためには、任意後見制度・生前贈与・金融機関などでの信託サービスがあります。それぞれ見ていきましょう。

任意後見制度

任意後見制度は、本人に意思能力があるうちに将来後見人になる人を任意後見契約で決めておく制度です。任意後見人は、本人の判断能力が低下した後で、本人に代わり財産の管理などを任意後見契約で決めておいた範囲内で行います。家族信託では身上保護は行うことができませんが、任意後見制度では可能です。

任意後見監督人が任意後見人の職務を監督します。財産の管理は本人が指定した家族などに依頼しておくことが可能です。

生前贈与

生前贈与は、存命中に本人の財産を他の方に贈与することです。すなわち、生きている間に無償で自身の財産を他者に与えます。

原則として贈与では、贈与を受けた者に贈与税がかかりますが、年間110万円以下の贈与であれば贈与税は課税されません。これを暦年課税といいます。

生前贈与を行う際には、相続開始前の7年以内の被相続人から受けた贈与については、3年以内の贈与合計額については相続税の課税額へそのまま加算され、4年前から7年以内の贈与合計額のうち100万円を超える額に対し相続税の課税額へ加算されるので注意が必要です。

信託サービス

信託銀行などでは、信託サービスという家族信託と混同されやすい商品があります。信託サービスには、認知症での資産凍結に備えて代理人を指定しておくサービスや、信託銀行が受託者となって委託者の財産を預かっておき、必要な場合に支払いを行うサービスなどがあります。

家族信託との違いは、信託サービスで信託できる財産の種類が金銭に限られることです。

また、信託契約の内容では信託サービスの場合はあらかじめ決まっているものが多く、家族信託の方が自由度が高いといえるでしょう。

家族信託の検討は元気なうちに

まとめ

家族信託は、柔軟な財産管理を実現できる制度です。財産の所有者が元気なうちから家族信託の手続きをしておけば、認知症になってしまった場合の心配も少なくなります。

家族信託の必要性を感じている方は、一度、家族でしっかりと話し合うのがおすすめです。

ファミトラでは、家族信託についての無料相談をお受けしています。家族信託についてのお悩みは、いつでもお気軽にご相談ください。

また、家族信託についての基礎知識を知りたい・学びたい方は、以下の無料オンラインセミナーへもぜひご参加ください。

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この記事を書いた人

田中総 田中総 家族信託コーディネーター®エキスパート 宅地建物取引士/司法書士

東証一部上場の企業で10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画等の様々な業務に従事。司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。お客様からの相談対応や家族信託の組成支援の他、信託監督人として契約後の信託財産管理のサポートを担当。

目次