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財産を自分以外の人に管理してもらう制度として「商事信託」「民事信託」「家族信託」といった言葉を目にする機会が増えたのではないでしょうか。
これらの制度は、それぞれ特徴や利用する場面が異なるため、利用開始を検討する場合には、違いを理解している必要があります。
今回の記事では「商事信託」「民事信託」「家族信託」の違いについて、それぞれの特徴やメリット・デメリットなどを解説します。
説明に移る前に、皆さんは「信託」とは何かをご存知でしょうか?
「家族信託」をはじめ「信託銀行」「不動産信託」「投資信託」など、「信託」という言葉は様々な場面で利用されていますが、言葉の意味合いはどれも同じです。
「ある人(委託者)が、自分の所有する財産を信頼できる人(受託者)に託し、一定の目的に従って管理・運用・処分してもらう仕組み」のことを「信託」と言います。
信託は3者から成り、関係性は以下の図のようになります。
「信託」という仕組みを利用することで、自分の大切な財産を信頼できる人に託し、自分が希望する目的に沿って、代わりに管理・運用してもらうことができるのです。
信託は、受託者のタイプによって「民事信託」と「商事信託」というように、呼称が2つに分かれます。
どのような違いがあるのか、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
「商事信託」とは、受託者が、信託報酬を得る目的で「業」として(※)行う信託のことです。
具体的に言えば、信託銀行や信託会社といった、信託業法に基づき金融庁に認可を受けた事業者が受託者として行う信託のことを指します。
現在、日本で行われている信託の大半は、この「商事信託」となっています。
「民事信託」とは、受託者が、利益を得ることを目的とすることなく、信託契約で定めた目的に従って行う信託のことです。
前述した商事信託と違い、委託者の家族といった「利益を得ること」を目的としない人が受託者となる場合を指します。
また場合によっては、家族で設立した一般社団法人が受託者となる場合もあります。
民事信託は、受託者が家族となるケースが多いことから、「家族信託」と呼ばれているのです。
「民事信託と家族信託では何が違うの?」といった質問を受けることは多くありますが、両者は基本的に同一と覚えておくと良いでしょう。
では実際「民事信託」と「商事信託」にはどのような違いがあるのでしょうか?
上記で説明した内容以外の違いについて、ここでは3点ご説明します。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
誤解を恐れずに言えば、民事信託と商事信託の違いは「家族に資産の管理を行ってもらうか、外部の人に資産の管理を行ってもらうか」の違いです。
家族の中で、自分が財産を託したいと思うような「信頼できる家族」に財産管理をお願いできるという意味で、民事信託は安心感があります。一方の商事信託も、免許や専門知識を持った金融機関などの「専門家」によって財産の管理・運用が行われるという意味での安心感があります。
「家族内で資産の管理を完結させたい」という人は民事信託を利用すべきでしょう。「身近に受託者として管理を任せられる相手がいない」といった場合には、商事信託を利用する方が適切です。
民事信託は、信託財産の範囲に特段制限がありません。金銭をはじめ不動産や未上場株など、様々な財産の信託が可能です。
一方、商事信託は、受託者により信託財産が予め定められていることが多いです。信託会社や金融機関ごとに、信託財産として取り扱える資産が既に商品としてパッケージングされているため、基本的に金銭しか取り扱わないことが多いです。
不動産や未上場株式は信託できないなど、委託者の希望に沿った商品が必ずしもあるとは限りません。
さらに信託銀行などでは、預ける金銭が数百万円以上であることが条件とされているケースが多いです。よって少額を信託したいといった場合に、その要望を叶えることは難しいでしょう。
民事信託は、家族間で多様な財産の信託を自由に設計できます。対して商事信託は、あらかじめ信託会社や金融機関が定めた設計の範囲内で信託を行うという点で、大きな違いがあります。
民事信託では、主に子供などの親族が受託者になるため、通常その報酬は無償であるケースがほとんどです(※契約内で定めた場合、受託者が信託報酬を受領するケースもあります)。
一方商事信託は、営利目的で行う金融サービスであるため、受託者である信託銀行や信託会社に対して、信託報酬を支払わなくてはなりません。
数十万円以上の初期費用に加えて、毎月数万円程度の管理費用や運用報酬、各種手数料などが発生します。
信託先によってその費用は異なりますが、高額の費用が設定がされている場合もあるため、利用する際は十分に吟味しておく必要があります。
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一部の金融機関では、商事信託としての信託サービスではなく、コンサルティングサービスとして家族信託の提供を開始しています。
コンサルティングサービスには、利用者の要望を実現するための信託の設計から専門家の紹介、信託契約書の文案作成など、家族間で家族信託を組成するためのサポートが含まれています。
ただし、多くの場合、信託できる財産に制限があったり、信託財産額を問わず手数料が一律で定められていたりと、利用者の状況によっては不便に感じる点があるかもしれません。
そのため、検討にあたっては各相談先から資料を取り寄せるなどして、よく比較した上で利用するかどうかを決定することをおすすめします。
商事信託を利用する上で、メリットとデメリットがあります。
ここでは、商事信託のメリット・デメリットを3つずつ解説します。
商事信託では、資産の管理を、免許や専門知識を持った金融機関などのプロに任せられます。
そのため、資産の運用や計算などの複雑な作業をしなくてすみます。
自分自身の資産管理の負担を軽減しつつ専門家の管理による資産管理ができるので、不安を抱えている人にとっては大きなメリットとなるでしょう。
民事信託を利用する場合、自分の資産を安心して預けられる受託者になってくれる人を探さなければなりません。
一方、商事信託を利用する場合は、受託者は金融機関などの組織であるため、受託者になってくれる人を探す必要はありません。
このように、周りに受託者がいなくても利用できる点もメリットの1つです。
商事信託は金融機関などの組織が受託者となるため、個人が受託者となる民事信託に比べて不正のリスクが低くなります。
そのため、商事信託の方が安心して利用できます。
一方、デメリットとしては、信託できる財産の範囲が狭いことが挙げられます。
商事信託における信託財産は、現状では金銭のみに限られており、最低金額も数百万円以上に設定されていることが多くあります。
自宅不動産や未上場株の信託には対応していないほか、収益用不動産でも対応していない場合もあるので、信託できる財産の範囲が狭いと言えるでしょう。
民事信託では、受託者に対する報酬の支払いは自由に設定できるため、報酬をゼロにしても問題ありません。
一方、商事信託は原則として報酬の支払いが発生します。
そのため、民事信託に比べてランニングコストがかかってしまう点もデメリットと言えるでしょう。
商事信託では、管理型信託会社や運用型信託会社に信託することになりますが、それぞれ業務範囲が限られています。
例えば、管理型信託会社ではすでに建築された賃貸物件の管理しかできないため、建設中に預けることができません。
このように、細かい契約の設定ができない点も商事信託のデメリットの1つでしょう。
では、民事信託にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ここでは、民事信託のメリット・デメリットについて解説します。
民事信託では、3代先まで相続先を決められる場合があります。
そのため、自分の財産を子供の配偶者ではなく孫に相続したい場合など、遠くの世代の相続先も決めておきたい場合は民事信託が便利に利用できます。
民事信託は自由で柔軟な財産管理・運用・承継ができる点もメリットの1つです。
民事信託では、委託者と受託者との間に合意があれば、商事信託では取り扱われないような資産の運用も自由にできます。
委託者と受託者に大きな裁量が認められているため、自由な財産管理をしたい方におすすめです。
民事信託は一度決めてしまうと受託者となる家族を長期間拘束してしまいます。
合意のもとで成り立っているとはいえ、長い期間が経てば考えが変わることも少なくありません。長期間に渡り拘束されてしまうのは、デメリットだと言えるでしょう。
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商事信託を選んだ方が良い場合と民事信託を選んだ方が良い場合があります。
ここでは、商事信託を選んだ方が良い場合を3つ解説します。
民事信託では受託者となってくれる個人を探す必要がありますが、家族・親族内に受託者になる人物がいなければ、民事信託を選ぶことができません。
一方、商事信託では組織が受託者となってくれるため、受託者を探す必要はありません。
そのため、この場合は必然的に商事信託を選ぶことになります。
家族に事務処理の負担がかかるのを避けたい場合にも商事信託がおすすめです。
民事信託を依頼できる家族はいるけれど、事務処理が苦手だったり多忙を極めていたりする場合は、民事信託の事務処理ができなかったり手が回らなかったりします。
その場合、家族に負担をかけると、日常生活に支障をきたす恐れがあるため、家族に受託者を依頼するのは避けた方が良いでしょう。
商事信託を選んだ方が良い場合について、おわかりいただけたでしょう。
ここでは、民事信託を選んだ方が良い場合についても3つ解説します。
遺産は現在の妻に相続させたいが、妻が亡くなったときには、前妻との間の子どもに相続させたい場合は民事信託を選んだ方が良いでしょう。
法定相続分通りに考えると、現在の妻に相続した分は、現在の妻が亡くなると現在の妻の兄弟姉妹に相続されてしまい、前妻との間の子供には相続されません。
そこで、家族信託を利用すれば、まずは現在の妻を相続人とすることで、現在の妻の生活を保障しつつ、現在の妻が亡くなったときには、前妻との子どもに財産を残すことができます。
遺言書では財産を渡す相手の指定ができますが、遺言書で指定できるのは直接相続する相手のみです。
一度相続した後、次の相続が発生した後の財産の行方は指定できません。
一方、民事信託では3代先まで財産を渡す相手を指定できるため、財産の行方を指定した場合におすすめです。
自分も関わりながら、徐々に後継者に事業承継を行いたい場合にも、民事信託は有効です。
後継者に株を委託する民事信託で、自分を受益者にし、指図権も自分に設定しておけば、後継者に実権を持たせた上で、引き続き経営に関わることができます。
自分が受益者になっており、財産の移動がないことから、贈与税が発生しない点においても有効です。
民事信託の利用を開始するには、様々な手順を踏む必要があります。
ここでは、民事信託の手続きを解説します。
はじめに、信託の内容や信託する財産を決めます。
民事信託を利用する目的に沿った内容にしていきましょう。
民事信託の内容は、後々トラブルになってしまう可能性が高いため、可能であれば家族全員で話し合うことをおすすめします。
内容などが決まれば、信託契約書を作成します。
目的や当事者、契約期間などを条文に記していきます。
信託契約の効力が続いている間は、信託契約書に書かれていることが優先されます。重要な書類なので、文言や書き方がわからなければ専門家に見てもらうのが良いでしょう。
信託契約書を作成したら、公正証書にすることがおすすめです。
必ず必要なわけではありませんが、公証人に作成を依頼することで契約書の信頼性が増すほか、原本を公証役場で保管しておいてくれるため、紛失のリスクも防げます。
最寄りの公証役場で作成できるので、ぜひ利用してみてください。
最後に、民事信託では、受託者が普段使用する銀行口座と民事信託に使う銀行口座は分ける必要があるため、銀行で受託者名義の信託口口座を作成します。
同時に、不動産も信託する場合は名義変更も必要です。
信託登記の形態を取りますが、手続きが複雑なため、専門家に依頼するのがおすすめです。
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商事信託と民事信託は、それぞれにメリット・デメリットがあり、利用する目的に応じて使い分けることになります。
受託者がいない場合や長期の信託になる可能性がある場合は商事信託を、相続する相手を自由に決めたい場合や事業承継を行いたい場合は民事信託を利用するのがおすすめです。
また、民事信託の利用を開始するには、複雑な手続きが必要になるため、専門家の力を借りる方が良いでしょう。
ファミトラでは、民事信託の利用を家族信託コーディネーターが一からサポートしています。
民事信託の利用だけでなく、様々な制度との併用も含め、お客様に最善となる選択肢の提案をおこなっていますので、まずはお気軽にご相談ください。
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化粧品メーカーにて代理店営業、CS、チーフを担当。
教育福祉系ベンチャーにて社長室広報、マネージャーとして障害者就労移行支援事業、発達障がい児の学習塾の開発、教育福祉の関係機関連携に従事。
その後、独立し、5年間美容サロン経営に従事、埼玉県にて3店舗を展開。
7年間母親と二人で重度認知症の祖母を自宅介護した経験と、障害者福祉、発達障がい児の教育事業の経験から、 様々な制度の比較をお手伝いし、ご家族の安心な老後を支える家族信託コーディネーターとして邁進。
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