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「家族信託」と「民事信託」に法律上の違いはありません。家族信託は民事信託のうち家族間で行われるもので、わかりやすい言葉で表現したものです。
この記事では、民事信託と家族信託、商事信託の違いに触れた上で、民事信託の仕組みやメリット・デメリットを解説します。民事信託・家族信託の利用を検討するきっかけとしてご活用ください。
民事信託と家族信託は、どちらも法律に登場する用語ではありません。
信託契約のうち、受託者が営利を目的として信託財産を管理することを「商事信託」と言います。商事信託と区別する概念として、受託者が営利を目的としていない信託契約を「民事信託」あるいは「家族信託」と呼ぶのです。
民事信託は、家族が受託者となるケースが多いので、家族信託とも呼ばれています。つまり、民事信託と家族信託は、いずれも営利を目的としない信託契約のことで、単なる呼び方の違いに過ぎません。
「家族信託」という用語は、一般社団法人家族信託普及協会によって商標登録されています。
同協会では、「家族信託」の名称使用を制限する目的で商標登録しているわけではありません。「信頼できる家族に財産の管理処分を任せる信託」を「家族信託」と呼ぶことを普及させるために、商標登録をしているのです。
この商標登録によって、営利を目的とした商品に「家族信託」の名称を使用することは制限されるため、「家族信託」は家族間での営利を目的としない信託契約を表す用語として定着し始めています。
「家族信託」は商標登録されているものの、各金融機関によって「家族信託」の名称を使用したサービスも展開されています。
金融機関が提供する「家族信託」は、基本的に金融機関が業務として営利目的で展開するサービスのため、「商事信託」に当たるものです。
この記事では、「家族信託」は「民事信託」であることを前提に解説を進めますので、金融機関の提供する「商事信託」としての「家族信託」は別物としてご理解ください。
民事信託とは、委託者の所有する財産の管理を受託者に託して、そこから生まれる利益を受益者が受け取る信託契約のうち、受託者が営利を目的としていないものを言います。
民事信託は、次の3者が当事者となる契約です。
民事信託では、委託者=受益者となるケースも多く、その場合は二者間で契約が締結されることになります。
民事信託が家族間で行われる家族信託の典型的な例は、委託者かつ受益者が親で、受託者が子どもというケースです。
このケースでは、親が所有する不動産や預貯金の管理を子どもが担当し、不動産の賃料などの利益は親が受け取ります。子どもは、自分で財産を管理するのが難しくなった親に代わって、営利を目的とせずに財産の管理を行います。
民事信託と商事信託の根本的な違いは、受託者が営利を目的としているか否かです。
商事信託では、受託者が不特定多数の人から、業務として信託を引き受けます。実際には、信託銀行や信託会社がサービスとして商事信託を提供しています。
民事信託と商事信託は、いずれも信託契約であって基本的な仕組みは変わりません。ただし、受託者の権限や信託可能な財産の範囲などの違いがあります。以下では、民事信託と商事信託の違いを詳しく解説します。
民事信託における受託者の権限は、信託契約の内容によって柔軟に設定されます。不動産の管理を例に取ると、賃料の管理だけを任されるパターンもあれば、不動産の売却までが権限の範囲内とされるパターンもあります。
家族関係や財産に合わせて、受託者の権限を設定できるのは、家族信託の魅力の1つです。
一方、商事信託の受託者となるためには、「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」によって免許や許認可の取得が必要となります。受託者の権限は、免許や許認可の種類によって厳格に決められており、自由に設定することはできません。
商事信託は、免許や許認可によって「運用型信託」と「管理型信託」に分けられています。「運用型信託」では受託者の権限は狭く、「管理型信託」では受託者の権限は広く設定されています。
民事信託では、基本的に信託できる財産の範囲に制限はありません。そのため、現金や不動産はもちろんのこと、非上場株式も信託財産にできます。
ただし、上場株式や国債、投資信託については、商品を取り扱う証券会社や信託銀行との関係で、信託財産とすることは難しいです。
商事信託での信託財産は、現金に限られるケースが多いです。収益物件も信託財産となるケースはありますが、自宅不動産や非上場株式は基本的に対象とされません。
現金以外の信託を行いたい場合には、商事信託ではなく民事信託の利用を検討することになります。
民事信託では受託者を選ぶ必要があります。家族や親族に受託者にふさわしい方がいなければ、民事信託は採用できません。
商事信託であれば、信託銀行や信託会社などが組織として受託者になるため、受託者を探さずに済みます。受託者にふさわしい方がいない場合は、商事信託を選ぶことをおすすめします。
家族や親族に受託者としての手間をかけたくない場合も商事信託を選んだほうが良いでしょう。民事信託の受託者は財産管理での事務処理が多く、事務仕事の苦手な方や多忙な方には向いていません。また、信託のプロに任せれば信託費用は発生するものの、収益を上げられる可能性も高くなるでしょう。
家族などの受託者に手間をかけず信託のプロに任せたい場合は、商事信託を選んだほうが良いでしょう。
民事信託を選んだほうが良いケースとしては、信頼できる家族だけで財産管理したい場合が挙げられます。自分の財産内容は、できれば他人には知られたくないものです。家族や親族の中に信頼できて財産の運用・管理ができる人がいれば、民事信託を選ぶのも良いでしょう。
民事信託では、3代先まで財産を渡す相手を指定できます。孫の世代に財産を託したい場合は、民事信託を選ぶことをおすすめします。
遺言では財産を渡す相手を指定できるものの、対象が次の世代の相続に限られます。遺言で子どもに財産を渡すことは指定できても、さらに子どもが亡くなった後に孫へ財産を渡すことまでは指定できません。
3代先まで財産の承継先を指定したい方は、民事信託を選んだほうが良いでしょう。
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民事信託と成年後見制度は、認知症対策としても利用できる制度です。ただし、目的や管理できる財産の範囲が異なります。
以下で2つの制度の違いと併用方法について見ていきましょう。
民事信託では、信託契約の内容に沿って受託者が委託者の財産の運用・管理・処分を行います。民事信託の目的は、委託者の財産管理を受託者が適切に行うことです。
一方で成年後見制度の目的は判断能力が低下した方の権利と利益を守ることです。成年後見制度では、家庭裁判所によって被後見人の契約締結などの法律行為を代理する成年後見人が選任されます。
本人だけで法律行為をすることは制限されますが、成年後見人が本人の法律行為を代理することで介護施設への入居契約などが可能になります。
家族信託で管理する信託可能な財産には、制度上特段の制限はありません。金銭をはじめ、有価証券、不動産などの金銭的価値のあるものを信託可能です。
信託財産についても、どのような目的で運用・管理し、その手段をどうするかも委託者が信託契約内容で決めておくことができます。
成年後見制度において成年後見人等は、本人の生活に関わる医療、介護などの本人の身の回りに関することに目を配りつつ、本人の保護と支援を行います。
本人の財産を管理し、体の状態や生活の状況も考慮して必要な福祉サービス、医療、介護サービスなどを受けられるように、介護契約など法律行為である契約締結や医療費などの支払いを行います。ただし、食事の世話や介護そのものは成年後見人等の職務に含まれていません。
民事信託と成年後見制度の併用は可能です。民事信託では身上保護を行えないため、受託者は本人に代わって介護施設などへの入居手続きができません。
成年後見制度では身上保護を行うことができます。財産管理だけでなく、身上保護を行う必要がある場合には、民事信託と成年後見制度の併用も検討すると良いでしょう。
また、信託財産以外にも多くの財産があって民事信託の受託者だけでは全ての財産管理ができない場合には、任意後見制度との併用で信託財産以外の財産管理ができるようになります。
民事信託を活用するメリットとしては、次の7つを挙げられます。
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
民事信託では、受託者の財産管理についての権限を柔軟に設定できます。そのため、現金を投資運用したり、収益を本人以外の家族のために使用したりすることも可能です。
成年後見制度における後見人は、財産管理について裁判所の許可や報告が必要になる事項が多く、財産管理の方法が限定されています。生前の財産管理が柔軟にできるのは、民事信託のメリットの1つと言えます。
民事信託では、遺言と同じく遺産の承継先を決めることができます。
さらに、株式を承継する人と経営権を承継する人を分けて指定するなど、遺言では不可能な承継方法を指定することも可能です。
生前に設定する民事信託で、家族と相談しながら遺産の承継先を決めておくと、死後の相続争いを防止できる可能性も高いでしょう。
民事信託を活用すると、遺産の承継先だけでなく、遺産を承継した人が亡くなった後のさらなる承継先まで指定できます。例えば、自分の死後は妻に遺産を相続させて、妻が亡くなった後には孫に遺産を相続させることを信託契約の段階で決めておくことが可能です。
遺言書では、自分が亡くなった際の承継先しか決めることができないため、先々まで遺産の承継先を決められる点に民事信託のメリットがあります。
民事信託は、委託者の判断能力が正常な段階で決めた信託契約の内容を、委託者の判断能力が低下したり亡くなったりした後も引き継ぎます。
委託者としては、自身の判断能力が低下した場合に備えて財産管理の内容を決められるので、判断能力が低下してしまった後のことを心配せずに済むようになります。
民事信託においては、信託財産の所有権が受託者に移転します。そのため、委託者が倒産・破産しても、委託者の債権者は信託財産を差押えることはできません。
さらに、信託財産は受託者の責任財産ともならないため、受託者が倒産・破産した場合でも、受託者の債権者は信託財産を差押えることができません。
つまり、信託財産は、委託者・受託者いずれの倒産・破産によっても債権者による差押えの対象となりません。これを、信託財産の「倒産隔離機能」と言います。
不動産が相続などで共有状態になると、不動産の賃貸や売却などの管理・処分を共有者の合意なしではできなくなってしまいます。
不動産を信託財産にしておくと、共有状態の不動産でも受託者が1人で管理・処分の権限を行使できます。共有状態のリスクを回避するには民事信託の活用が便利です。不動産からの利益は受益者が受け取れるので、共有状態の不動産も有効に活用できます。
民事信託は、当事者間で合意する信託契約です。成年後見制度では、裁判所に後見人を選任してもらいますが、民事信託は、裁判所など公的機関の関与なしで設定できます。
裁判所の関与があると、申立書を作成したり、裁判所に出向いたりする手間や、費用もかかってしまいます。申し立て手続きの手間や費用を抑えて利用できるのは、民事信託のメリットの1つです。
民事信託には、メリットだけでなくデメリットも存在します。民事信託のデメリットは、次の5つです。
それぞれの内容を詳しく解説します。
民事信託では、財産管理の方法を柔軟に設定できます。一方で、委託者の高齢者施設への入居契約を締結したり、病院での手続きをしたりといった身上監護についての取り決めはできません。
身上監護についても対応するには、民事信託に加えて成年後見制度の併用を検討する必要があります。
民事信託の利用自体に、節税の効果はありません。それどころか、民事信託で不動産投資を行うと、損益通算ができなくなるため、委託者が管理を続けるよりも多くの税金を支払わなければならない可能性もあります。
税金面で損をしないためには、民事信託を利用する際に、税理士などの専門家に税金面での相談をしておくべきでしょう。
民事信託における受託者は、善管注意義務、忠実義務、財産の分別管理義務などさまざまな義務を負います。財産を適切に管理するには、帳簿の作成も必要で、受託者にかかる負担は大きいです。
受託者が負担を感じても、信託契約を一方的に破棄することはできません。契約内容によっては、受託者は長期的に拘束されることになるため、受託者になるのは相当な覚悟が必要です。
民事信託を利用する際には、家族間で内容をしっかり話し合う必要があります。委託者や受託者の独断で手続きを進めると、話し合いに参加していない家族が不満を感じて、後々のトラブルに繋がる可能性があります。
民事信託は、受託者に財産管理を任せるため、独断で進めると他の親族が不公平感や不信感を抱いてしまうのです。受託者による財産の使い込み・持ち逃げのリスクも否定できません。
上述のとおり民事信託には節税効果がありません。特に贈与税や登録免許税などの税金面では注意が必要です。
高額な税金が課税される可能性がある例として、次のような場合があります。委託者が保有する不動産を民事信託財産として、受益権を孫が持つ信託契約を締結した場合です。
この場合には、委託者本人ではなく孫が受益者として信託財産から生じる利益を受けることになります。他益信託として孫に対して贈与されたものと見なされ、孫に高額の贈与税がかかる可能性があるでしょう。
他にも信託財産が不動産の場合には、委託者である親の死亡後に信託契約を終了させたときの登記のために登録免許税がかかります。登録免許税には複数の種類があり、契約内容によっては高いほうの税率が適用される可能性もあります。
上記のような事態に陥らないためにも、信託に精通した税理士に相談するようにしましょう。
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民事信託を利用する際の手続きの流れは、次のとおりです。
信託契約書を作成する際には、専門家に相談することをおすすめします。民事信託は、大きな財産を取り扱う重要な契約です。家族間でのチェックで済まさずに、専門家のチェックも受けておくのが安心でしょう。
民事信託の利用時にかかる主な費用は、次のとおりです。
公正証書の作成費用は、最低額が5,000円で信託財産の額に応じて高くなります。たとえば、信託財産の額が3,000万円〜5,000万円のケースでは、2万9,000円です。
民事信託では、信託財産となった不動産の所有権を受託者に移転するので、移転登記のための登録免許税もかかります。登録免許税の額は、建物の場合は固定資産税評価額の0.4%、土地の場合は固定資産税評価額の0.3%です。
さらに、専門家にコンサルティングを依頼する場合には、信託財産の1%程度のコンサルティング費用もかかります。
費用について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
民事信託に関する相談先として、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家が挙げられます。それぞれの専門分野での特徴があるため、対応できる範囲も異なります。
依頼内容に合った専門家を見つけられるように、以下ではそれぞれの特徴を解説していきます。
どの専門家であっても民事信託に精通し、経験が豊富な専門家を探すことが大切です。民事信託の組成を任せられる適切な専門家を見つけるようにしましょう。
弁護士は法律分野全般の専門家であるため、依頼内容にも制限がないといえます。民事信託に関する業務全般に対応可能です。
特に、民事信託に必ず必要となる信託契約は、法律の専門家である弁護士には安心して作成を依頼することができます。
一方で依頼内容に制限がないため、費用面では後述の司法書士や行政書士に比べ高額です。
また、民事信託に特化した弁護士は少ないのが現状です。民事信託では信託登記も必要になります。登記手続きに精通した弁護士も少ないことから、民事信託の最適な依頼先とは言い難い面もあるでしょう。
民事信託を依頼する専門家としては、司法書士が一般的です。司法書士の業務内容は登記や相続であり、民事信託の内容に合致する部分が多いため、民事信託の専門家といえるでしょう。
民事信託には、複雑な手続きが多く含まれています。成年後見制度全般にも理解の深い専門家でもあるため、司法書士は民事信託に関する相談ができる専門家として適しているといえるでしょう。
ただし、弁護士のように法律体系全般に対応できる専門家ではないため、訴訟などの争いが想定される案件には適していません。
行政書士は街の法律家としても知られており、弁護士や行政書士に比べると依頼のしやすさや費用面から相談しやすい専門家といえます。民事信託に関する業務も依頼可能です。
前述の弁護士、司法書士には登記の代理権があり、登記手続きも可能です。ただし、行政書士は提出書類の作成はできるものの、登記の代理権はありません。
行政書士に依頼する場合であっても、登記に関しては別途司法書士に相談して手続きを行ってもらわなければなりません。
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お客様から寄せられる事信託に関するよくある質問に回答します。
民事信託の活用が期待されるのは、委託者の財産管理と承継について柔軟な設定をしたいケースです。
民事信託では、裁判所や後見人の監督を受けずに自由な財産管理ができます。民事信託を設定しないままに本人が判断能力を失うと、財産管理は非常に窮屈なものとなってしまいます。
遺産の承継先についても、先々の代まで指定でき、株式と経営権を分けて承継させることも可能です。
民事信託は、これまでの成年後見制度や遺言を補完するものとして活用すると良いでしょう。
資産に不動産が含まれる場合には、信託登記の抹消登記手続が必要となるため、抹消登記手続のための費用がかかります。抹消登記手続の費用は、1件あたり1,000円ですが、司法書士に手続きを依頼する場合には、1件当たり数万円の費用がかかるでしょう。
民事信託と家族信託は、法律上同じものです。民事信託と家族信託を理解するには、営利を目的とする商事信託との違いを理解しておくと良いでしょう。
本記事では、民事信託の相談ができる専門家には弁護士、司法書士、行政書士などがあり、民事信託に精通し経験豊富な専門家を選ぶことの重要性をお伝えしました。
民事信託には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。民事信託を利用すべきか迷っている方は、ぜひファミトラまでご相談ください。ファミトラでは、民事信託の相談を無料で受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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化粧品メーカーにて代理店営業、CS、チーフを担当。
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その後、独立し、5年間美容サロン経営に従事、埼玉県にて3店舗を展開。
7年間母親と二人で重度認知症の祖母を自宅介護した経験と、障害者福祉、発達障がい児の教育事業の経験から、 様々な制度の比較をお手伝いし、ご家族の安心な老後を支える家族信託コーディネーターとして邁進。
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