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現在、日本は超高齢社会となり、認知症も身近な病気となっています。親が認知症になると、さまざまなリスクが発生する可能性が大きくなります。
特に財産管理については、親族を巻き込むトラブルにまで発展する恐れがあるため、きちんと対策することが必要です。
この記事では、認知症によって起きるリスクやトラブル、認知症発症後の財産管理の方法について詳しく解説します。興味のある方は、ぜひ最後までお読みください。
田中 総
(たなか そう)
司法書士
2010年、東証一部上場の不動産会社に新卒で入社し、10年以上に渡り法人営業・財務・経営企画・アセットマネジメント等の様々な業務に従事。
法人営業では遊休不動産の有効活用提案業務を担当。
経営企画では、新規事業の推進担当として、法人の立ち上げ、株主間調整、黒字化フォローの他、パートナー企業に出向して関係構築などの業務も経験。
司法書士資格を取得する中で家族信託の将来性を感じ、2021年6月ファミトラに入社。
田中 総
司法書士資格保有/家族信託コーディネーター/宅地建物取引士/不動産証券化協会認定マスター
東証一部上場のヒューリック株式会社 入社オフィスビルの開発、財務、法人営業、アセットマネジメント、新規事業推進、経営企画に従事。2021年、株式会社ファミトラ入社。面談実績50件以上。首都圏だけでなく全国のお客様の面談を対応。
認知症とは、脳の病気や障害等により脳の神経細胞の働きが低下することで、認知機能が衰え、社会生活に支障をきたす状態のことをいいます。
認知症の有病率は年齢とともに高まり、現在、65歳以上の約16%が認知症であると推計されています。
認知症には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があり、これらは4大認知症と呼ばれています。アルツハイマー型認知症が最も多く、次いで血管性認知症、レビー小体型認知症が多くなっています。
アルツハイマー型認知症は、脳の一部が萎縮することで起こり、ゆっくりと進行することが特徴です。血管性認知症は脳梗塞などの脳の血管障害により起こり、レビー小体型認知症は幻視や手足の震えが起こることが特徴です。
認知症は一度発症してしまうと、現時点では根本的な治療はありません。しかし、症状の進行を遅らせたり、症状を軽減させたりすることはできます。
認知症の初期症状として、物忘れが表れますが、物忘れが多くなったからといって、認知症とは限りません。人は誰でも、加齢とともに物忘れが激しくなる傾向があるからです。
しかし、認知症による物忘れと加齢による物忘れにははっきりとした違いがあり、前者は体験そのものを忘れてしまうことに対して、後者は体験の一部を忘れてしまうことです。
例えば、前者では食事をしたこと自体を忘れるのに対して、後者では食べたメニューを思い出せないという違いがあります。
親が認知症になった場合に起こり得るトラブルやリスクは、主に次の5つです。
以下で詳しく解説します。
認知症の症状が進行すると、日常生活で新しいことが覚えられなくなったり、今までできていたことができなくなったりすることがあります。近所へ出かけただけなのに迷ってしまい、帰宅できずに行方不明になる可能性も考えられるでしょう。
また、簡単な交通ルールを忘れ、赤信号なのに道路に飛び出し事故に遭う、車を運転していて逆走する、アクセルとブレーキを踏み間違えて大事故に至るなどもあり得ることです。
危険に対する判断ができずにけがややけどを負う可能性も考えられます。
例えば、沸騰したやかんを触ってしまったり、沸かしたての熱いお風呂に入ってしまったり、刃物の扱いを間違えてけがをしたりといった恐れがあります。
認知機能の低下により、現金やキャッシュカードでいくら使ったのかを把握できなくなり、多額の買い物をしたり、現金やキャッシュカードそのものを紛失する危険があります。
施設への入所や入院など、高額の費用が必要なときにお金が足りず、家族が負担することになりかねません。
また、キャッシュカードの暗証番号を忘れてしまい、お金を引き出せなくなる可能性もあります。この場合、暗証番号を変更しようとすると、銀行に認知症であると知られてしまい、口座が凍結される可能性があります。
高齢になると、持病などで常時、薬を服用する方も多くなります。ところが、認知症が進行すると、薬の飲み忘れや、薬を飲んだこと自体を忘れて多量に服用して体調を崩すほか、場合によっては生命の危険に及ぶこともあります。
また、認知症が進行すると、「失認」といって食べものを認識することができなくなり、目の前に食べ物があっても手でいじるだけで口にしないこともあります。
あるいは、「失行」といって箸などの使い方が分からなくなり、食事を口にしなくなる可能性も考えられるでしょう。
認知症による相続トラブルは、2つのケースがあります。1つは、認知症の本人が亡くなって相続が発生するケース、もう1つは本人が相続人になるケースです。
前者におけるトラブルは、本人の金銭管理に関することです。本人の金銭管理を一部の親族が行っていた場合、その他の親族との間で金銭トラブルに発展する可能性があります。
トラブルの回避には、金銭管理の透明化をする必要があります。本人のために使ったことを証明するために、レシートや領収書を取っておきましょう。
後者におけるトラブルは、認知症によって判断能力が低下し、全ての法律行為が無効になることです。相続放棄や遺産分割協議への参加ができなくなり、相続手続きが進まなくなってしまいます。
親が認知症であることを銀行に知られると、口座凍結の可能性があります。口座凍結とは、銀行などの金融機関において取引が制限される状態のことです。
口座が凍結されると、年金などを生活費や医療費に使おうと思っても、年金の振込口座からお金を引き出すことができなくなり、家族が立て替えをしなければならなくなります。
先述したように、認知症により判断能力がなくなると、本人がした法律行為が無効になってしまいます。そうなると、不動産の売買や賃貸等ができなくなります。
認知症の家族の預金や不動産を管理するには、後述する成年後見制度等を利用しなければなりません。
親が認知症になった場合にやるべき手続きは、以下の5つです。
認知症の進行によっては利用できないものもあるので注意しましょう。
親が亡くなった場合に、遺産の配分について親の意思を表したものが遺言書です。遺言は、相続人同士の争いを防ぐためにも有効な手段であり、適切に作成されていれば相続がスムーズに進みます。
遺言書には、主に以下の3種類があります。
公証役場で公証人が作成する遺言書です。遺言者の口述した内容を記述し、遺言者と証人2名が内容を確認します。
遺言能力が高い、検認が不要などのメリットがあります。
遺言者本人が自署して作成する遺言です。費用がかからないのがメリットですが、法律に詳しくない者が作成すると、形式や内容に問題があり無効になる場合があります。
遺言者が作成後、公証役場で遺言の存在を認証してもらう遺言書です。ほとんど使われていません。
遺言は、形式に誤りがあると無効になってしまうので、弁護士等の専門家に相談するのがおすすめです。
生前贈与とは、本人が生きているうちに財産を他者に無償で与える行為です。財産を与える方を贈与者、受け取る方を受贈者といいます。
贈与は契約なので、判断能力があることが前提です。
生前贈与は、主に相続税対策として行われます。本が亡くなったとき、何もしなければ相続財産に対して相続税がかかります。
生前に相続財産を贈与しておけば、その分相続財産が減るため、相続税の節税が可能です。
贈与にも本来贈与税がかかりますが、年間110万円までの贈与は非課税となるため、毎年110万円ずつ相続人となる人に贈与していけば、相続税対策になります。
成年後見制度とは、認知症等により判断能力が不十分な人の財産管理や身上保護を行う制度です。身上保護とは、生活、医療、介護に関する契約をサポートすることです。
成年後見制度には、法定後見と任意後見の2つの制度があります。
法定後見制度は、認知症発症後に、関係者が家庭裁判所に申し立てをすることにより開始します。すでに認知症が進行している場合は、法定後見制度しか利用できません。
任意後見制度は、被後見人が後見人に就任予定の人と判断能力が亡くなった場合に備えて行う契約です。後見人や後見内容は本人の意思で決められますが、判断能力のあるうちに契約しなければなりません。
金融機関でも、認知症になった場合にさまざまな制度を用意しています。その1つに、代理人登録制度があります。
銀行の代理人登録制度とは、預金者本人が銀行窓口やATMに行けなくなった場合に、本人に代わりあらかじめ登録しておいた代理人が各種の手続きができる制度です。預金者本人が事前に口座を持つ銀行に申し込むことでこの制度を利用できます。
代理人に登録できるのは、原則として預金者本人の3親等以内の親族1名です。代理人は、預金の入出金、定期預金の入出金、本人の住所等の変更を行えます。
金融機関により用意しているサービスは異なるので、金融機関に相談してみましょう。
家族信託とは、本人が信頼できる家族や第三者に自分の財産を委託して、特定の目的に従って、管理・処分・運用する制度です。財産を委託する人を委託者、財産の委託を受ける人を受託者、委託された財産から生じた利益を得る人を受益者といいます。
家族信託には、以下のようなメリットがあります。
このようにメリットの多い家族信託ですが、契約なので判断能力があるうちに組成しなければならない、組成するには高度な法律知識が必要であり、一般の方が自分で行うのは難しい点などがデメリットです。
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親が認知症になると、生活が大きく変わったり、財産管理や不動産管理に支障をきたす可能性があります。「ひょっとして親が認知症かも…」と思ったときにやるべきことを、3つ解説します。
親に認知症の兆候が見えたら、まず、家族が認知症についての理解を深めましょう。認知症になったからといって、すぐに徘徊したり、家族を判別できなくなったりするわけではありません。
早く病院に連れて行きたいと思う方も多いかもしれませんが、無理に病院に連れて行くような行為は、親との関係性を悪化させるだけです。
焦らずに認知症の症状や進行過程、対処方法などを学び、認知症になってしまった親の気持ちを少しでも理解できるように努めましょう。
また、同居している親族だけではなく、家を出た子や親の親族等とも連携し、親族全体で認知症についての知見を深める協力をすることにより、親の面倒を見る家族の負担も軽減します。
親に認知症の兆候が見えた場合、地域包括支援センターに相談するのも1つの方法です。
地域包括センターとは、①介護、②医療、③保険、④福祉などの面から地域の高齢者をサポートする総合相談窓口です。
地域包括支援センターの主な業務は以下の4つです。
親に認知症の兆候が見えた場合、最も大切なことは、親に判断能力があるうちに、家族と今後の方針について話し合うことです。
特に話し合うべき内容は以下の4つです。
誰が親の介護をするのかを決めるとともに、介護した人に相続時に優遇するのかどうかも決めると、後々のトラブルを避けられます。さらにその内容を遺言に残しておけば安心です。
認知症になった人の財産管理の方法として、法定後見、任意後見、家族信託等があります。判断能力があるうちなら選択肢も多く、より本人の意思に沿った方法が選べます。
高額の出費があった場合、そのお金をどのように捻出するのかを決めます。自宅などの不動産を売却するのか、本人の預貯金から出すのか、あるいは家族で負担するのかを決めておきます。
誰にどの程度相続させるのか、また、節税のため生前贈与を利用するのかを決めます。
認知症は誰でもなる可能性があります。認知症はもちろん、成年後見や家族信託などの財産管理についての理解を深めることが重要です。
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