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2023年に成立した「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」、通称「認知症基本法」とはどのような法律なのでしょうか。
本記事では、認知症基本法の概要や定められている基本理念、施策、求められる変化について解説します。
認知症の人が希望をもって暮らすために、重要な役割を果たす法律です。本記事を参考にして認知症基本法について理解を深めてみてください。
2023年6月に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が可決されました。
ここでは、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」がどのような法律なのか、目的や成立背景、基本理念などについて解説します。
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」、通称「認知症基本法」は認知症の人が自身の尊厳を持ち、希望を抱いて生活を送れるようにするための法律です。
全37条からなり、目的や基本理念をはじめ、認知症施策推進基本計画、基本的施策、認知症施策推進本部の設置などについて規定されています。
国や地方公共団体の責務などについての条文もあり、行政を通じて認知症の人が社会で活躍するための基盤を作っていくことが求められています。
認知症基本法の主な目的は、認知症の人も含めた国民全体で共生社会を作ることです。
共生社会を作ることで、認知症の人も認知症でない人も、お互いに支えあいながら生きていく環境が作られ、活力ある国づくりができます。
認知症基本法が成立した背景には、2025年には高齢者の5人に1人が認知症患者になるともいわれている状況があるのです。
認知症になることはマイナスなことだと考えられがちですが、認知症の人が希望をもって暮らせる社会を作れれば、認知症になることを悲観的に考える人が少なくなります。
そのような希望を持てる社会の基盤を作るため、認知症基本法が制定されたのです。
認知症基本法では、7つの基本理念が定められています。
(引用:e-GOV法令検索|共生社会の実現を推進するための認知症基本法)
- 全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにすること。
- 国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深めることができるようにすること。
- 認知症の人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるものを除去することにより、全ての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができるようにするとともに、自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができるようにすること。
- 認知症の人の意向を十分に尊重しつつ、良質かつ適切な保健医療サービス及び福祉サービスが切れ目なく提供されること。
- 認知症の人に対する支援のみならず、その家族その他認知症の人と日常生活において密接な関係を有する者(以下「家族等」という。)に対する支援が適切に行われることにより、認知症の人及び家族等が地域において安心して日常生活を営むことができるようにすること。
- 認知症に関する専門的、学際的又は総合的な研究その他の共生社会の実現に資する研究等を推進するとともに、認知症及び軽度の認知機能の障害に係る予防、診断及び治療並びにリハビリテーション及び介護方法、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすための社会参加の在り方及び認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境の整備その他の事項に関する科学的知見に基づく研究等の成果を広く国民が享受できる環境を整備すること。
- 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の各関連分野における総合的な取組として行われること。
7つの基本理念では、認知症の人の基本的人権を尊重し、尊厳ある暮らしをするために必要なことが定められています。
認知症の人のみならず、周囲の人が認知症に対する理解を深め、地域社会で支えていくことが重要です。
さらに、認知症の人だけでなく、その家族などについても安心して暮らせるような社会を作ることも重要視されています。
世界では、国際アルツハイマー協会が1994年に9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定しました。2012年からは9月を「世界アルツハイマー月間」とすることで、認知症に対する理解を広げる活動を進めてきました。
それにならい、認知症基本法でも9月21日を「認知症の日」、9月を「認知症月間」とすることで、国民に認知症への理解を深めてもらう活動が進められています。
地方公共団体でも、認知症の日や認知症月間に合わせて講演会や展示会を開催するなど、認知症への理解促進の動きが見られます。
例えば、北海道音更町で実施されているのが、「認知症パネル展」や「認知症講演会」です。
このように、地方公共団体が積極的に認知症への関心や理解を深める活動を行うことで、住民により認知症を身近に感じてもらうことが重要です。
認知症を身近に感じることで、自分ができることについて考えを巡らせてもらうだけでも、共生社会を作りやすくなります。
(参考:音更町|9月は認知症月間です)
認知症基本法の主な基本的施策として、以下の8つがあります。
それぞれの基本的施策の内容を以下で解説します。
認知症の人が安心して暮らせる共生社会を作るためには、国民の認知症に対する理解を深める必要があります。
具体的には、認知症はどのような症状なのか、認知症の人とどのように関われば良いのかなど、認知症の人と生活を送る上で必要な知識を理解してもらうことが大切です。
認知症の人が自立した生活を安全に送るには、バリアフリー化が欠かせません。
認知症の人は認知機能が低下してしまうため、少しの段差でもつまずいて怪我をしてしまう可能性があります。
そのため、可能な限り速やかにバリアフリー化を行うことで、認知症の人も安全に暮らせるようにすることが大切です。
認知症になっても、他者との交流を増やすなど脳を活発に動かすことを続けることで、認知症の進行を抑えることができます。
地域でのイベントに認知症の人も参加しやすくするだけでなく、若年性認知症の人の雇用の継続や就職支援なども重要です。
認知症の人も気兼ねなく社会参加できるように、受け入れ体制を構築していくことが求められます。
認知症になると、判断能力が低下するため意思決定が難しくなります。
認知症の人による意思決定は、法的に有効にならなくなってしまうということです。
そのような場合に、認知症の人の意思決定を支援し権利や利益を保護することで、認知症になってからも、本人の意向に沿った暮らしができるようになります。
認知症になった人が利用できる保健医療サービス・福祉サービスの整備を進めることで、認知症になった後でも安心して暮らせるようにすることが大切です。
また、認知症になると口座凍結をされてしまうため、家族でも預金を引き出せず、適切なサービスを受けられなくなる可能性があります。
そのため、認知症になった人が適切な保健医療サービス・福祉サービスを受けられるために、預金の引き出しも含めた提供体制の整備が必要です。
認知症の口座凍結については、以下の記事で詳しく解説しているので、興味のある方はあわせてお読みください。
認知症の人やその家族に相談できる人がいないと、悩みを1人で抱えてしまい、場合によっては健康状態や精神状態にも影響を及ぼすことが考えられます。
相談体制を整備することで、認知症に関する悩みを打ち明けることができ、追い詰められることなく生活できるようになるのです。
認知症の人や家族が相談できる場所の1つに、認知症カフェがあります。
認知症カフェとは、社会福祉法人や医療法人、NPOなどが運営する施設で、認知症にまつわる悩みを抱えている人が集まって交流できる場所です。
参加費は100円など、安く設定されている場所が多いため、気軽にいけることが魅力的です。
認知症カフェについて詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてお読みください。
認知症にはさまざまなタイプの症状がありますが、その多くはまだ治療法が確立されていません。
認知症は現段階では完治することが難しく、ほとんどのタイプで症状の進行を遅らせることしかできません。
しかし、研究が進めば根本的な治療が可能になり、認知症が治せるようになる可能性があります。
そのため、国が主導して認知症に関わる研究等を推進することも、認知症基本法の基本的施策に含まれているのです。
認知症になった人のケアのみならず、認知症になりにくくする試みを行うことで、認知症患者そのものを減らそうという動きもあります。
100%予防することは難しいですが、人と話したり運動したりすることで脳を活性化させることなどは認知症の予防に効果があるとされています。
他にも、さまざまな予防に関する取り組みが行われているため、そのような取り組みを広げていくことで、認知症患者を減らすことも重要です。
認知症基本法の成立がもたらす影響や期待される変化はあるのでしょうか。
国や地方公共団体のみならず、国民全体やサービス提供者に求められることがあるため、認知症基本法により期待される変化について解説します。
国や地方公共団体は、認知症基本法の基本理念に基づいて、認知症に対する施策を計画し実行することが求められます。
国や地方公共団体が施策を計画することで、国民やサービス提供者も認知症対策をしやすくなります。
くわえて、政府は施策を実行するために必要な法整備を進めるだけでなく、財政的な面でも確実な支援を行うことで、認知症の人が安心して暮らせるようにすることが大切です。
国民全体には、認知症に対する正しい知識を身に付け、認知症の人に対して正しい理解を深めることが求められます。
「知らない」「わからない」「自分には関係ない」と考えるのではなく、高齢者の5人に1人が認知症になる可能性がある現代においては、1人の当事者として認知症について考える必要があります。
国や地方公共団体、サービス提供者に任せるだけではいけません。
国民ひとりひとりが認知症についての理解を深めることで、認知症の人がいるときに配慮した行動ができ、認知症の人が安心して暮らせるような共生社会を作ることに繋がります。
保健医療サービス・福祉サービス提供者には、国や地方公共団体が実施する施策に協力することが求められます。
国や地方公共団体だけで認知症の人をサポートすることは難しいため、保健医療サービス・福祉サービスの提供者による協力が必要です。
くわえて、良質かつ適切な保健医療サービス・福祉サービスを提供することも求められています。
交通・金融・小売などのサービスの提供者にも、国や地方公共団体が実施する施策に協力することが求められます。
くわえて、サービスの提供に支障のない範囲で、認知症の人が暮らすために必要かつ合理的な配慮も求められます。
特に金融機関においては、口座凍結をした際の救済策を用意するなどして、認知症の人やその家族が適切なサービスを受けられる環境を構築することが大切です。
超高齢社会の日本において、認知症対策は早急に取り組む必要がある課題といえます。
認知症基本法の成立を受け、国や地方公共団体、各サービス提供者は、認知症の人が暮らしやすくなるために必要な施策の実行をすることになるのです。
今後、どのような政策や社会の動きが見られるのか、期待がもてます。
私たち国民ひとりひとりも、認知症対策に主体的に携わることにより、認知症の人たちとの共生社会を作りましょう。
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最後に、認知症基本法に関するよくある質問を2つ紹介します。
私たちひとりひとりが、認知症に対する正しい知識を得て、認知症の人に対する理解を深めることが求められます。
認知症に対して正しく理解すれば、身の回りに認知症の人がいるときに、適切な行動を取れるようになります。
お互い支えあう共生社会を作る上で、認知症に対する理解を深めることは非常に大切です。自身で調べたり講演会に参加したりして、認知症への理解を深めるようにしましょう。
認知症基本法に定める基本理念を実現するため、必要な施策の計画を策定します。
地方公共団体と役割分担をしながら、必要な法整備も行います。
また、必要な場所には財政的支援も行うことで、お金がないからサービスの提供ができないことのないようにすることも、国の役目です。
認知症基本法は、認知症の人が希望をもって暮らせる社会をつくるための法律です。
国や地方公共団体、サービス提供者はもちろん、全ての人が認知症に対する理解を深めることが大切です。
それに伴い、認知症に備えておきたいとお考えの方は、家族信託の利用を検討してみてください。
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